Stardustbakery星屑べーかりー

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No.8, No.7, No.6, No.5, No.4, No.36件]

迷いの色


「みんな、中に入ってもびっくりしないでね。」

メブキが扉に手をかけて、劇団アリエスに入る。
すると、真っ暗な空間が広がっており、黒い雲のようなものが浮かんでいる。

「・・なんなんですか・・ここは・・・」
「劇団アリエス。」
「わっ!わかってますって! どうしてこうなったのでしょう?」

青ざめた表情でココアットが言う。
メブキは険しそうな表情をしながら言葉を返す。

「この空間が広がる前、アヤセはものすごく追い詰めていた様子だったんだ。アヤセは画家の卵でね、劇団アリエスで使う背景画とか描いてる子なんだけど・・」

「そだ、みんなこれ持っといて。」

メブキがみんなに目薬とサングラスを渡す。

「あの、アヤセってさ、色に対してものすんごくこだわりが強い子なの。さっきアヤセを助けようと先に進もうとしたら、まぶしい光が広がったから、持っておいた方がいいかも。」

「メブキさんありがとうございます。」

マニたちはサングラスと目薬を受け取り、サングラスをかける。
ぷらりおがマニの手をつんつんと優しくたたいて言う。

「・・ここの気配、夢世界に似てるね。」
「うん。さっきまでは普通に劇団の中に入れたんだけど・・
 確かにここは、私が行きたいと思っていた空間だよ。」
「じゃあ、現実世界から夢世界に繋がった・・ということ・・?」
「ぷらりの予想だと、メブキさんがアヤセさんをたすけたーい!っていう気持ちが夢世界に繋がったんだと思う。」

その時、黒い雲がこちらに襲い掛かってきた!

「こっちはまだ話している途中なんだってば!!」

メブキは腰にかけていた大きな剣を取り出し黒い雲を追い払う。
黒い雲はあっという間に散り散りになり、消えていった。

「ふう、こんなのがうじゃうじゃいるから先に進めなくて。
 でも体の疲れは残るけど現実世界に戻っても
 ケガの傷は残らないんだよね。
 これも夢世界の影響ってやつかな?」
「はい。夢世界は心に負担のかかる不思議な世界なので・・
 おいしいものを食べたり、傷は隠すと気持ちが和らぎますね。」
「おいしいもの・・じゅるり。ささ、アヤセ助けよ!!こっちだよ!!」

メブキが駆けていく。
3人は何とかついていくが、ココアットが立ち止まってしまう。

「ぜえ・・ぜえ・・ま、待ってください。
 ぼ、ぼく走るの苦手で・・そ、そうだ。タイニー!!」

ココアットがタイニーの名前を呼ぶと、タイニーはどんどん大きくなる。
そしてココアットをおんぶできるくらいの大きさになった。
ココアットはタイニーに乗り、タイニーが走り出す。

「お、お前ずるいぞ!!」

コルヴスを追い抜きココアットは、メブキと並んだ。

「ココアットやるねえ! でもこの奥から要注意だよ。」

黒い雲、動く絵筆に布のおばけ。
ココアットは持っている本を開き、本の文章を唱え始める。

「いっけー!!」

ココアットが詠唱を終えると炎が舞い、襲い掛かる雲たちを囲う。
そして、ココアットの背後にまたひとつ、雲が現れる。
それをすかさずタイニーがパンチして追い払う。

「アルが楽しいって言ってたのも分かる気がす・・ぜーはー・・」

「ココアットさん、無理しないでください。」
「ぷらりたちにもお任せあれ!」

マニがパラソルを開き、ぷらりおが魔法をかけて優しい光を飛ばす。
動く絵筆は元の絵筆に戻っていく。
コルヴスも羽ペンで魔法陣を描き、自分の身を守っていた。

戦いながら、走り、全員が疲れ始めていた。

「あの、こんな場所でいうのもおかしいのですが・・おやつにしませんか?」

マニが洋菓子店プレルーナで買ったお菓子を取り出す。

「わあ!ありがとう!これ洋菓子店プレルーナのお菓子でしょ!?おしゃれだねえ。腹が減っては戦はできぬって言うしお言葉に甘えていただくね。」

お腹はすくし、疲れ始めてもいる。そんな中、甘いお菓子が出たらほおばってしまう。あっという間にお菓子はなくなり、全員元気を取り戻した。

複雑な迷路のような空間が広がっている。
行き止まりにあたったり、動くイーゼルから逃げたり。
なんとか、扉の前までたどり着けたが。

メブキは何かを感じ取ったかのように言う。

「・・なんかね、なんとなくだけど。
 あの扉の奥にアヤセがいる気がするの。」

―奥の空間。

耳の下で結んでいるツインテールの少女がいる。
髪の色は淡い黄色で、結ばれている耳の下の毛は片方ずつ赤、青で染まっている。

少女は自分に語りかけるかのように言う。

「・・私の色は、私が見つけた色。」

「だれにも・・奪われたくない。」

暗闇はささやく。

「空の塗り方綺麗だよね、どうやって色混ぜてるの?」

「草原の緑は?」
「夕焼けの色は?」

笑いかける暗闇に対して少女は叫ぶ。

「誰の色でもない。私の世界。」

「それを教えることなんてない。」

「・・色は自分で作るの!!」

少女は持っている筆で色を作り
暗闇にやみくもに投げつける。

「あー!!うるさい!うるさい!うるさい!!」

筆からあちこちに色が投げつけられる。
その色はどこか濁っている。

「夜空の青は?」
「紫は?」
「黄色は?」

暗闇はそんな色に動じず、語りかける。

「うるさい!黙れ!!」

感情的な叫びが響く。

「虹色は?虹色はどうやって作るの?」

「・・・・・・・・・・・。」
「さっきからうっさいのよ!!」

暗闇のばかにするような語りかけに
少女も耐えられなくなっていた。

「色しか作れない画家!!!」
「人物が描けないから背景しか描かない!!」
「1つしか描けないなら画家じゃないよ!」

少女は唇をかみ、怒り交じりに叫んだ。

「・・色を馬鹿にしたわね!」
「あんたらまとめて塗りつぶす!!!」

少女が筆を構えなおした瞬間。
扉が開く。

「アヤセ!!助けに来たよ!!!」

メブキがアヤセの前に立つ。

「だいじょうぶですか・・?」

マニたちもアヤセを囲むように立つ。
アヤセは驚きを隠せない。

「!? め、メブキ・・? あ、あと知らない人。」

「この空間、雑音が聴こえる。ひどい雑音だ。」
「色について尋ねてくるゴミの音。
 背景画家として迷っている、迷いの音が聴こえるな。」

コルヴスは耳につけているヘッドホンに手を当てる。
アヤセは焦り始める。

「そ、そんなこと・・ない。」
「アヤセ・・?」
「そんなことないってば!!!」

暗闇が集まり、大きな闇が広がっていく。

「みなさん!! 気を付けてください!!」
ココアットが構える。

闇の中から三原色のまぶしい光が飛び出してくる。
メブキはアヤセをかばう。

「メ、ブキ・・」
「だいじょぶ!」
「アヤセのその迷い!断ち切って見せる!」

メブキが剣をふり、タイニーが暴れだす。
ココアットが炎の魔法で加勢する。
マニとぷらりおも光の魔法を放つ。
しかし、魔法は闇の中に吸い込まれていく。

「・・魔法が効かない・・!?」
「じゃあ叩き切るまで!!!」

メブキが走り、剣を地面に刺す。

「大地の力よ、芽吹け!!!」

剣が刺さったところから岩が飛び出て、闇を襲う。
大きな闇はいくつかの小さい闇に分かれていった。

「ぼくたちも加勢します! タイニーお願いします!」

タイニーの大きくなった手で小さい闇を叩いていく。
小さくなった闇は今度は動きが素早い。

「うう・・困ったなあ。」
「そこの金髪!下がりなさい!!」

アヤセがココアットの前に出ると筆を構えなおす。

「さっきは・・・よくも私を馬鹿にしたわね!!
 その濁った色、塗りつぶす!!」

両手に筆を握り、舞を舞うように
アヤセが動くと虹のような光が現れ始める。

「極彩色!!」

アヤセの声に合わせて、色が闇を押しつぶす。
闇の気配はなくなった。

「・・・・・・ぐすっ。」
「うわああああああん!!」

その途端、アヤセはうつむいて、大きな声で泣き始めてしまった。

「アヤセ・・」
メブキがそっとアヤセを抱き寄せる。

「私、迷ってた!背景しか描けなくて!!
 色の事は分かってるのに、上手く使ってあげられなくて!」

アヤセもメブキをぎゅっと抱きしめる。

「そうよ、私はデッサンは得意じゃない。
だから色で作れる空を描いてた!!逃げてたのよ!!
逃げた結果、こんな空間に閉じ込められた!!」

メブキがアヤセの頭をそっとなでる。

「・・でも、私はアヤセの描く空が好き。
劇なら人は役者さんが立ってくれる。
アヤセの世界は・・劇団の支えなんだよ。」

「色が好きなアヤセも。
デッサンの人形とにらめっこしてるアヤセも。
私はどっちも知ってるよ。
アヤセは絵から逃げてない。」

アヤセはうなづくように頭を動かす。

「ぐずっ・・うっ・・」

「アヤセ、アヤセは話してくれたよね。
 私の名前の由来は・・」

「色とりどりの世界・・」

「そう!だからアヤセ、みんなで帰ってもう1度色んな色を見よう?」

「う、うん・・!!」

少しずつアヤセが明るい表情を取り戻していく。
マニたちはほっとした。

「よかった・・」

すると、空間の天井に星の形をした欠片が浮かんでいる。

「あれ?・・もしかして・・欠片?」
「ああ、聴こえる。あれも星屑の欠片だな。欠片も迷っていたようだ。」

「おいで。」
マニが欠片に手を差し伸べると、欠片はマニの手に乗った。

「迷っていて、さみしかったよね。」
「もう、大丈夫。書物の塔にあなたの仲間がいるからね。」

マニが優しく話しかけると、欠片もうなづくように動いた。

「みんな、かえろ。欠片が見つかって劇団アリエス、元通りだよ!」

「・・私のせいで。なんてことしちゃったのかしら。」

「まあまあ、元に戻ったんだしさ、いいじゃん!
 ぷらりお、元の世界までお願いね!」

「りょーかい! ぷらりまじっく! 劇団アリエスにみんなでかーえろ!」

ぷらりおが手をぱん!と叩くと優しい光があらわれ全員を囲む。

そしてまぶしさのあまり目を開けられなくなり、目を瞑る。

目を開けたら、そこは、本物の劇団アリエス。
周りの劇団員たちは何があったか覚えていないようだ。

ココアットは、ふう・・と一息つくと。
「今までの出来事、全て劇団アリエス、アステリズムに伝えました。」

全員が目を丸くする。
あの短い時間で劇団アリエスとアステリズムに報告したというのだから。

「ぼくの羽ペンは不思議な羽ペンでして
 頭の中に描いた言葉の伝達が出来るようになっているんです。
 これで少しでもお役に立てればよいのですが。」

「ありがと!!ココアット君助かるね!」

「い、いえ出来ることをしただけですよ!
今後の事も考えて何が起きたか皆で共有しましょう。」

ココアットはマニのほうを見て、不思議な光を出す。

「あと、マニさん。
ぷらりおくんが夢世界を開く鍵なら連絡手段はあった方が良いですよね。
ぼくの持ってるほしつむぎを1つ渡しますね。」
「いいんですか・・?
ほしつむぎは、連絡したい時だけあらわれる星の光。
・・光が言葉や音を受信するエネルギー・・」
「もちろん!マニさんたちのおかげでぼく自信つきましたから!
ふたつ持っていますし、お礼にプレゼントしますね。」
「ありがとうございます・・!!」

マニとぷらりおはほしつむぎの光を見て微笑んでいる。
コルヴスはマニに聞こえない声量でココアットに言う。
「病み上がりの無茶な冒険はもうするなよ。」
「あはは・・ばれちゃいましたか!
 ちょっと具合悪くなっちゃってて。」
「ああ、そうしてくれ。呼吸の音がおかしかったぞ。・・ありがとな。」
「ふふ、どういたしまして。」

ココアットは振り返って言う。
「すみません、そろそろぼくは書物の塔に戻ります。
そして、メブキさんこちらが台本です。
ティフィーさんによろしくお伝えください。」

「ありがと、ココアット!
私から伝えておくね!それじゃまた!」

「はい。マニさん、コルヴスくん、ぷらりおくん。メブキさん。
 また冒険出来たらうれしいです。
 それではまた!」

ココアットが劇団アリエスを後にする。
すると陽気な声が聞こえてくる。

「あ、ココー!こんちは!!
 えー!もう帰るの?つまんなーい!
 また来てよね!」

陽気な足音がこちらのほうに近づいてくる。
はねた茶髪のわんぱくな少年が走ってくる。

「んん???メブキお姉ちゃんとアヤセだ!やっと戻ってきた!」
小説,ぷらり、ね。 5188文字 

行こう! 劇団アリエス


「それでは行きましょうか!!!」

夜空に瞬く星のように輝いている目をした少年が言う。彼はココアット。書物の塔の番人をしている。劇団アリエスに脚本を届ける関係で外出することになり、心躍っている様子。書物の番人は書物の塔にいることが多く、業務の事情で中々外に出られないのだ。劇団アリエスに異変が起こっていないか、の確認も兼ねてマニ、ぷらりお、コルヴスとお馴染みの3人も同伴することになった。

「昨日とはノリが別じゃないか。」
「いや~!ありのままの自分を知っていただけて、ぼくも楽になりましたよ。3人とアルには感謝していますよ。」

満面の笑みでココアットは答える。外に出られることが嬉しいらしい。

「ココアットさん、明るい表情になってよかったです。」
「おい、マニ!それ以上は言うな!」
「わー!!マニさん!ありがとうございます!ぼく、明るくなってます?嬉しいです!」
「だから言ったんだ・・。」

書物の塔にいたココアットは、とても内気だった。だが、今の星屑の街の異変を自分で見なければいけないと最初の一歩を踏み出したのだ。本当は、心の中に眠っていただけであって、今のココアットが本来のココアットなのかもしれない、とマニは思ったのだった。

「いいじゃん? ココアットさんが元気になったなら。暗いとぷらりどうしたらいいか分かんないもん。」

えへへっ!とぷらりおも笑ってみせる。劇団アリエスは星屑の街の南側、港区にある。差し入れや自分たちのおやつも買うために洋菓子店プレルーナに向かった。

「わあ!!すごい!!おいしそう!!目移りしちゃいますねえ!!!」
「お前、もしかして、甘いものが好きなのか?」
「はい!とっても大好きです!!!普段食べられないから珍しく感じちゃうんですよね、あと洋菓子も和菓子もおしゃれじゃないですか、可愛いデザインの裏側にある歴史をたどれるなんて、ロマンあふれる食べ物ですよね!?ねっ!?」

洋菓子店プレルーナに入るなり、ココアットはさらに目を輝かせる。女の子だったかしら?と思うくらいはしゃいでいる。よほど食べたかったのだろう。すると1人の少女が近寄ってくる。
「こんにちは!あなたはお菓子が大好きなんですね、喜んでいただけて、あたしもとっても嬉しいです!」
桃色のツインテール、桃色と白の衣服、苺のような赤い瞳。まるでお菓子みたいな少女が声をかけてきた。
「えへへ、今日はケーキがおすすめですよ。でもこれからお出かけされるんですよね?だったら、持ち運びがしやすいクッキーやマカロンもいかがですか?」
にっこりと優しい喋り方で思わず心が和む。
「どうしてお出かけって分かったんですか?」
不思議に思ったマニは、声を出す。
「だって、お土産のコーナーも見ていましたし、今から帰るにしてもお昼前・・ですよね?だから帰るには早いかなあって。」
横でココアットがあたふたしはじめる。
「おい、何震えてるんだ。」
コルヴスが口を挟む。
「ぼ、ぼく!外に出て本当によかった!!だって、アステリズムの癒しアイドルのコロナさんが目の前にいるんですよ、わーお会いできるなんて光栄です!」
今度は、くるくる回り始める。
「喜んでもらえたならあたしも嬉しいです。えっと、自己紹介ですね!あたし、コロナです。アステリズムでアイドルをしながら、洋菓子店プレルーナでお手伝いしています。宜しくお願いしますね!」
「コロナさん! 私も直接会えて嬉しいです!私は、マニです。この子はぷらりお、くるくるとしているのがココアットさんで、こっちがコルヴス君です。」
「コロナさん、よろしくね!」
ぷらりおもぺこりと挨拶をする。
「えへへ、あなたはぷらりちゃん!もふもふで可愛いですね!」
頭を撫でられたぷらりおは、嬉しさのあまりほっぺたがとろけているように見えた。それを見たマニは、ちょっとだけ複雑だった。やっぱりアステリズムのアイドルだなぁ。・・アステリズム?そういえば。とマニは引っかかる。アルアートと別れる際にゼクスが言っていた言葉がよみがえる。

―アステリズムでも応援者との距離感厳重注意って注意喚起が出ていて危ないから、1人の外出は控えたほうがいいよ。

何か知っていないかな?とマニは口を開く。

「あの、この間、アステリズムで厳重注意の注意喚起が出ているって聞いたんですけど・・コロナさんは何か聞いていませんか?」
「えっと・・あたしは・・ぜくすさ・・いえ、ほとんどスタッフさんにおまかせしているので、あたしの方ではわからないんです。ごめんなさい・・」

落ち込むコロナに対して、滑り込むかのようにココアットが言う。

「コロナさん!!折り入ってお願いが!!」
「? あたしにできることでしたら・・」
「サインください!!!!」

マニとぷらりおは、あーあ。とため息をついてしまった。
コルヴスも思わず、お前なあ・・と言ってしまった。

コロナの案内で、お菓子を買いそろえた3人は店を後にして、劇団アリエスまで歩いていく。そう、今日の目的はお菓子を買うこと・・ではなく、ココアットの執筆した台本を劇団アリエスに届けること。そして、劇団アリエスで異変が起きていないかを確認すること。

「うふふ、今回のお仕事が終わったら、書物の塔にサインを飾りますよ!!」
「・・・アルアートもアステリズムで、しかも幼馴染だろう?怒らないのか?」
「大丈夫ですよ。ぼくがこういう性格なの知ってるので。」
「アルアートさんって心広いねえ・・。」
「うん。」

そうこう話しているうちに、劇団アリエスがある港区までやってきた。
すると、茶髪の女性と猫耳のメイドがしゃべっているのが聞こえてくる。

「ねえねえ!!ゆずりはちゃん!夢世界に連れてってよ!!」
「ゆめせかい? にゃーにを言っているのかにゃ? めぶにゃん!」
「だーかーらー! 夢世界にもう一回私を連れてってよ!」
「にゃんにゃんアイドルゆずりはにゃんに不可能はにゃい!って言ったけどにゃ・・
 アイドルライブ以外の異世界へはお連れできにゃいのにゃ!」

大きな声で響き渡る会話。

「ねえ、あの人、夢世界に連れてってって言ってなかった?」
「言ってたな。理由ありってわけか。」

ココアットが、あの・・と言おうとしたが

「夢世界に連れて行ってもらわなきゃ・・」
「夢世界に連れて行ってもらわなきゃ・・アヤセが・・」
「夢世界に連れて行ってもらわなきゃ・・アヤセを助けられない・・」

女性の念仏のような独り言にかきけされてしまった。
あまりにも抱え込んでいる様子に耐えられず、思わずマニは。

「夢世界の行き方!!!知ってます!!!!」

負けないような大きな声を出してしまった。
マニは顔が真っ赤で、慣れない大きな声を出して少し息切れしている。
それに気づいた女性は、我に返ってこちらを見る。

「・・ごめん。頭がいっぱいで目の前にいる子にも気づかないなんて。」
「ん・・?」

女性がココアットを見る。

「あ、ココアットじゃん、こんにちは!劇団アリエスに何か御用かな?」
「メブキさんご無沙汰しています。台本を届けに来たんですけれど、それどころじゃなさそうですね。」
「そうなんだよ、今劇団アリエスがとーっても大変なことになってるの!!ココアットも呼ぼうと思っていたんだけど、ちょうどゆずりはちゃんにも会って!異世界に連れてってくれるって言うから事情を話したら無理だー!って言われて。」
「異世界じゃないにゃん。夢世界にゃ。とんだ勘違いだにゃ。」

「ゆずりはは、にゃんにゃんアイドルゆずりはにゃん。アステリズムのアイドルにゃ。覚えてくれると嬉しいにゃん。めぶにゃんが混乱しているところを止めてくれてありがとうにゃん。」

語尾ににゃんを貫き通すアイドルゆずりはもメブキが混乱している様子には困っていたようだ。

「あの・・」
詳しい事情を聞きたくなり、思わずマニはメブキに声をかける。

「あ、ごめん!ココアットと先にお話ししちゃって。
 さっきは止めてくれてありがとう。
 私は劇団アリエス所属のメブキだよ! あなたは?」

「こんにちは。私はマニです。この子は妖精のぷらりおで、あっちでゆずりはさんとお話をしているのがコルヴスくんです。」

マニが抱えているぷらりおをメブキは不思議そうに見つめる。

「んん?妖精?見た目はたぬき・・?」
「ぷらり、たぬきじゃないもん!あらいぐまなの!あらいぐまの妖精なの!!」
「おっと、これは失礼。色が茶色だとわからなくて。」
「ぷらりは心を洗うあらいぐまの妖精なんだよ。」

メブキとぷらりおが会話を弾ませている間に
コルヴスとゆずりはも何か話しているようだ。

「ここにもアステリズム・・。」
「ヘッドホン少年、なんでため息をつくにゃ?かわいいアイドルはお嫌いなのかにゃ?」
「いや、さっき、アステリズムのピンクのアイドルに会ったから、またかって・・。」

「ころにゃーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!」

ゆずりはの大きな声が響く。

「あ、あの・・劇団アリエスに異変、なんですよね?」
話題を戻すためにココアットがメブキに話しかける。
「そうなんだよ! 今劇団アリエスの建物がおかしいことになってんの!見に来てくれる?」
「私たちもご一緒してもいいですか?」
「もっちろん!だって夢世界はぷらりおがいないと行けないんでしょ?
 みんなで協力していこ!」
「おう。」
いつの間にかコルヴスが会話の輪に入る。
ゆずりはも事情を聞いたものの、仕事の兼ね合いで行けないことを残念がっていた。

「今回は残念だけど‥まあ、大声出してすっきりしたことだし、ゆずりはにゃんは次のMCのお仕事に向かうのにゃ!夢世界探索、応援してるのにゃ!またね!なのにゃ!」

ゆずりははメブキたちを見送り、自分の仕事場へ向かっていく。

歩いていくと見た目こそは変わらない劇団アリエスの建物が見えてくる。

「みんな、中に入ってもびっくりしないでね。」

メブキが扉に手をかける。

扉を開くとそこは、現実とは思えない空間になっていた。
小説,ぷらり、ね。 4178文字 

ひらけ!書物の塔


マニとコルヴス、そしてぷらりおは書物の塔の前に立っている。空からアルアートが魔法の鍵に乗ってやってきて全員集合。
「コ~コ~・・!!書物の塔ずっと閉めてたの許さないんだから!私がシメてやるわ!」
「今日開いたばかりということは、たくさん人が集まる可能性があるな。さっさとココアットに会いに行くとするか。」
「それは大丈夫。ココに会えるのは私たちが先客で、あとの人は図書館を使う人でいっぱいだから。」
アルアートのお調子者な発言は風と共に流れていった。今回書物の塔に行くための目的。図書館エリアより奥にある本を読むために書物の番人ココアットの許可を取りに来たのである。
「開け!ゴーマー!!」
アルアートが掛け声を開け、扉を開ける。扉はゆっくりと開き足を踏み入れる。青い壁、青い床、水路もあり、まるで海の中に入ったかのような空間が広がっていた。
天井を眺めると、魚の光が泳いでいる。
「きれい・・!」
「書物の塔は初めてかしら? 中々きれいな建物よね。」
アルアートが書物の塔の高い天井まで魔法の鍵で飛んでみせる。
すると、奥の階段から足音が聞こえてくる。
金髪のお団子結び、紫色の衣服を着た少女がこちらまでやってくる。青い瞳がこちらを冷たい目線で見つめている。
「・・アル。ちょっとは静かにしてよ。」
「あ、ごめん。はしゃぎすぎた。」
その場の空気が気まずくなる。
「すみません。場所を変えましょう。」
少女が奥に案内する。階段を上った先には番人の部屋があった。少女は椅子に腰をかける。椅子に腰をかけたことで、番人ココアットは彼女なのだと三人は確信した。アルアートは、むすっとしていてこちらを見ようとしない。
「御用があるのは、あなたたちですね。書物の番人、ココアットは確かにぼくです。さて、お忙しい中、来て頂き恐縮ですが。」
「ぼくのお団子結びとかそういうのが珍しくていらしたなら帰ってもらいますよ。」
「違うわよ!マニちゃんもコルヴスくんもぷらりちゃんも!星屑の街がおかしなことになっててその原因を調べるために、ココや書物の塔にある本が見たくてきたの!そんな理由じゃないわよ、ばか!」
マニはアルアートを止めるように喋りだす。
「ココアットさん、初めまして。私、マニです。最近、星屑の街の表現者たちが暗い気持ちや悩みを抱えている事案が増えていることはご存知でしょうか?」
「ええ、知っています。でもぼくに出来る事は何もないでしょう。ぼくはカウンセラーではないし、お医者さんでもありません。」
「・・星屑の欠片が散り散りになったことで、街を守っている結界がなくなったために起きている事、といってもお前に出来る事はないのか?」
「・・!?どういう、ことですか・・・。」
ココアットは目を丸くする。そして相棒とみられるくまのぬいぐるみをぎゅっと握っている。
「確かにここ最近の星屑の街は異常でした。表現者の悩みもそうですが・・表現者を応援する方々のことを応援者と呼びますよね。応援者の行動もちょっと引っかかるものがあるのです。応援者が表現者との距離感が取れない事で、警備員の仕事が急激に増えたりしているとも聞いています。今までそんなこと一度もなかったのに。」
「それも結界がないから・・だと思う。でもね。ぷらりたちの知識だけじゃよくわからないの。ぷらりは夢世界にみんなを連れていくことが出来るけれど、自分たちだと何もわからない。だから助けて!って言ってるの。」
ぷらりおは、ココアットの抱いているくまのぬいぐるみをつんつんと当てながら喋る。
「夢世界に仲間を誘う妖精がいるのですね。分かりました。みなさんのお話を信じましょう。アルも冷たい態度を取ってごめんね。」
「ううん、いいの。私も怒り過ぎたわ。」
「さあ、タイニー!!」
ココアットの抱いていたくまのぬいぐるみ”タイニー”はココアットの声に応じて大きくなる。大きさで言えば、ココアットがちょうど乗れるくらいだ。大きくなったタイニーは、天井をボタンを押すような力で叩いてみせる。すると、天井に大きな壁が開く。星型の穴がいくつも開いているではないか。プラネタリウムのようにも見える美しい光景だが、この穴は見覚えがある。
「・・星屑の・・欠片が入りそう。」
「ええ、この壁は、星屑の欠片をはめるようにできています。結界も書物の塔を拠点に作っていたものですから、ぼくも違和感があったのは気付きました。そしてマニちゃん、あなたは星屑の欠片をお持ちですね?ふしぎなエネルギーを感じます。」
ココアットが言うと、マニが持っていた星屑の欠片がひかりだし、天井へ昇っていく。星屑の欠片はがっちりとはまり、離れようとしない。そして優しく光りだした。
「ここが本来の星屑の欠片の場所なんだね。なんだかうれしそう。」
「星屑の欠片が一つ増えるたびにここに来たほうがいいのか?だとしたら手間だな。」
「いえ、それは大丈夫でしょう。星屑の欠片が二つあるのでその欠片を道しるべに他の欠片も戻ってくることが出来るはず。ただ、夢世界にある場合、帰り道が複雑に入り組んでいるので、自分たちで探す必要があります。」
「それならだいじょーぶよ!マニちゃんとコルヴス君とぷらりちゃんは夢世界を冒険できるんだから!この二つの欠片もマニちゃんたちが見つけたんだもの。」
「ほ、本当ですか・・。ぼくもここに留まって本ばかり読んでもダメですね。本は歴史を教えてくれるけれど、今のことは教えてくれない。今ばかりは自分で足を運んで見に行かなくては。」
ココアットは、タイニーの名前を呼ぶ。タイニーはみるみる元通りの大きさに戻り、天井の扉もしまった。
「改めまして・・書物の番人ココアットです。マニちゃんコルヴスくん、ぷらりおくん、ぼくでよければ力を貸しましょう。魔法の知識があるので、お役に立てるように頑張ります。宜しくお願いします。」
ココアットが一礼すると、ぷらりおはココアットの頭をなでた。
「ぷらりおだよ、よろしくね。タイニーもよろしくね。」
「マニです!ココアットさんが力を貸してくれるなんて嬉しい!宜しくお願いします。」
「コルヴスだ。ところで・・」
「お前は、男だよな?」
コルヴスの一言に対してマニとぷらりおは、ぽかんとする。
「え、そ、そうなんですか?ココアットさん!?」
「は、はい・・。このお団子結びはアルが小さいころにしてくれたものを自分でもそのまま続けてしているもので・・。その影響で女の子だと間違えられるのですが、男です・・。あはは・・。」
「ええーーーーーーー!!!!」
書物の塔に今までにない大きな声が響いた。
「星屑の街の歴史・・もそうなのですが、劇団アリエスやアステリズムは表現者がたくさんいます。異変がないのか気になりますね。アルは何も聞いてない?」
「アステリズムは特にないわよ。」
「そうか・・。ぼくの用事に付き合わせて悪いのですが、劇団アリエスの方に脚本を届けなければいけないのです。もし宜しければ様子を見に行くのも兼ねて、お付き合い頂けないでしょうか?」
「分かりました。行ってみましょう。・・私たちは入れるかな?」
「それなら大丈夫です。ぼくが同伴しているならば、関係者として入れて頂けるはずです。」
「ありがとうございます!」
「それでは明日書物の塔の1階で待ち合わせをお願いしてもいいでしょうか?お弁当も準備したほうがいいでしょうか?お菓子も必要ですか!?」
ココアットは、嬉しそうに喋る。
「なんか急に目が輝きだしたな。」
「ココは、番人になってからあまり外に出られなかったのよ。だからすごく嬉しくなるとああなるのよ・・。」
ココアットと待ち合わせの約束をした後、書物の塔の一階に戻る。すると、入り口付近にアルアートのことをじっとみる青年がいる。夜空のような藍色の髪、月のような黄色い目。白いコートを羽織っている。
「や、やだ~!モテ期到来かしら?」
アルアートは言っていることとは真逆に冷や汗をかいている。青年がこちらに近寄ってくる。
「アルアート!やっと見つけた!」
「うげ・・ゼッくん~・・お疲れ様で~す・・・。」
「君たち、アルアートをみつけてくれたんだね。ありがとう。」
穏やかな声で青年は話しかける。マニは恋人なのかな?と感じたのだが、そんな感じでもない。
「お二人はどういったご関係で・・」
「ああ、ごめん。僕はアステリズム所属警備員のゼクス。おまわりさんみたいな感じかな。アルアートがずーっと外に出たままだから、探しに行くように頼まれて星屑の街をあちこち探していたんだ。」
ゼクスと名乗る青年はアステリズム所属の警備員。ということは、アルアートは抜け駆けをしていたのだ。つまり・・と考えるとマニとコルヴス、ぷらりおの目線はちょっと冷たい。
「わ、わーかったわよ!ちゃんと帰ります~!でも溜めていた事務仕事はちゃんと片づけてから抜けてきたわよ?」
「でも、アステリズムでも応援者との距離感厳重注意って注意喚起が出ていて危ないから、1人の外出は控えたほうがいいよ。じゃあ、アステリズムまでアルアートを送るよ。君たちどうもありがとう。」
「いえ・・。」
「見つかったからには仕方ないけど。マニちゃんコルヴス君、ぷらりちゃん。また一緒に冒険しましょうね!ぜったいよ!」
アルアートとゼクスはゆっくりと帰っていく。マニとコルヴス、ぷらりおも書物の塔から出た。もう夕焼け空になっていた。
「ココアットさんって男の人だったんだ・・」
「今日の収穫はそれでいいのか、マニ?」
「ち、違うよぉ。今まで女の人だと思ってたからびっくりしただけだよ。」
コルヴスは、ふーんと一息つくと、先にてくてくと歩いて行ってしまった。
マニとぷらりおも追いかけていく。
明日は、いよいよ劇団アリエスに向かうことになったけれど、関係者として入るのは初めて。わくわくするなぁ。
小説,ぷらり、ね。 4063文字 

くるくるまわって、ここはどこ?


「だーーー!! 何なのよ、ここは!!くるくる回ってばっかりじゃない!!」
アルアートの声が夢世界の夜空に響く。ここは、天の川橋。のはずだが、天の川橋の入り口に入った瞬間、不思議な力に吸い込まれてしまい、天の川橋とそっくりな夢世界にマニ、コルヴス、ぷらりお、アルアートの4人は迷い込んでしまった。ぷらりおの魔法の力で星屑の街に戻れないか、試してみたのだが・・
「出入り口がふさがってて、ぷらりの魔法の力が弾かれちゃうよぉ。この夢世界の奥まで行けば、手がかりがあるかもだけど・・。」
夢世界の出入り口がふさがってしまい、星屑の街にも戻れない。夢世界の奥を目指して4人は進んでいる。せっかく星を眺めるはずが夢世界の探索になってしまった。アルアートには、夢世界のこと。星屑の街のこと。星屑の欠片のこと。全部話した。
「面白そうじゃない!それでココに用事があったのね?ココなら書物の塔の本、全部把握してるだろうから、なんとしても説得させましょ!私も力になるわ。」
今の状況は良くないのだが、アルアートの笑顔や明るさを見ていると、普段の状況と変わらない気がしてしまう。理解を得られたこと、ココアットの説得に力を貸してくれるとのことで、マニはとても心強いと安心した。
あたりは水たまりで溢れている。雨は降っていない静かな空間だ。歩いていると、想いが形になった水が浮かぶ。水はコルヴスに襲い掛かってきた。
「ふっ!」
コルヴスは手持ちの羽ペンで暗闇の魔法を描き反撃した。マニもぷらりおと一緒に光の魔法で応戦する。
「わー!!ファンタジー!!」
アルアートが歓声を上げたその時、残りの水がアルアートにとびかかってくる。マニがアルアートの名前を言おうとしたその時。
「私もこういう世界!あこがれていたのよねえ!」
アルアートは、カバンの中から鍵を取り出し、水に投げつける。鍵が水に触れた瞬間、鍵が光りだし、水と一緒にはじけて消えた。辺りは、想いの気配が消え、静かになった。
「か、鍵が・・!!」
マニが思わず声に出すとアルアートは笑って言う。
「ふっふっふー!私の実家は魔法の鍵屋さん。訳ありB級鍵は魔力を込めて護身用に使っていいってお父さんから渡されているのよね。」
鍵をじゃらじゃらと音を立てながらアルアートは手に取ってみせる。
「その魔法の鍵も実家で作られたものなのか?」
コルヴスの質問に対して、アルアートは、渋い顔をして答える。
「うーん・・違うのよね!家に何故かあったらしいのよ。最初は展示してたんだけど、私この通り足が不自由だから動くために使いなさいって、使用許可もらって使ってるわけ。」
「アルアートさんのご実家が、鍵屋さんって初めて知りました・・。」
「あははは、魔法の鍵に乗り始めてから知った人が多いのよ。でも鍵共々知っていただけて光栄に思うわ。」
4人は気を取り直して、奥へ、奥へ、と進んでいく。歩くたびに水が浮かび上がったり、水辺の影響か魚が浮かんでいたりしたが、アルアートの鍵が飛び、マニ、ぷらりお、コルヴスも魔法で応戦したので、場慣れしている4人の敵ではなかった。夢の世界とはいえど、空腹に関しては現実とリンクしているので、早く出なければいけない。幸い、唐揚げ先生からのお菓子の差し入れがあり量も4人で食べるにはちょうどいい量だった。
「さっさと出るんだろ。そろそろ本気を出すか。」
「こ、コルヴスくん・・それ・・・。」
「栄養ドリンクだよね・・?」
コルヴスが口に何か加えているかと思って見てみれば、どこから取り出したのかわからない栄養ドリンクだった。すごく苦そうである。しかし、コルヴスは動じずそのまま飲み干してしまった。
「ごみはどうすればいいんだ・・?」
「夢世界とはいえポイ捨てはダメよ。ちゃんと帰ってごみ箱に捨てましょうね!」
アルアートはカバンから袋を取り出しお菓子のごみや栄養ドリンクの瓶を分別して捨てる。
「アルアートさんってマメなんだね。明るいけど・・・」
「そうよ?趣味は雑誌や新聞のスクラップ、付箋集めに・・・」
「誰も聞いてない。」
コルヴスが話を打ちとめ、更に進んでいく。行き止まりということは、ここが奥ということになる。アルアートは、大きな声で叫ぶ。
「はーやーくーここから出しなさーい!!!」
声は虚しく、夜空に響くだけかと思えば。どたんっ!空から大きなペンギンが降ってきた!そしてペンギンは喋る。
「ねえねえ、書物の塔がふさがっているんだよね・・時間あるんだよね・・さみしいからぼくたちと遊んでよ!」
ペンギンは、水の魔法を使って4人に襲い掛かってくる。
「ずいぶんと乱暴な遊びだな! お前を倒して現実の街に帰らせてもらうぞ!」
コルヴスが反撃をする。アルアートは魔法の鍵で空を飛び、ペンギンをかく乱させる。マニはコルヴスに加勢する。水がはじける、水をよける、水にあたってみるとすごく痛い。誰が何のために、マニたちを夢世界に誘ったのかは分からないが、ここから出なければ書物の塔に行くことが出来ない。ペンギンは大きいのであまり早く動くことはできないのが救いだった。もし早く動いていたら、子供の体力ではよけきれない。アルアートも魔法の鍵から落ちてしまえば動けなくなってしまう。そろそろ体力的に限界とマニが思ったその時だった。アルアートがペンギンを囲むように鍵を投げ始める。
「マニちゃん、ぷらりちゃん!コルヴス君!離れて!私のとっておきをお見舞いするわよ!」
赤い鍵、青い鍵、黄色い鍵・・さまざまな鍵がペンギンを囲む。そして、囲み終わったその時、光が鍵をつなぎ、魔法陣が生まれる。
「魔法の鍵が織りなす連弾!!くらいなさいっ!!」
虹色の光が大きな体のペンギンを包み、光とともにペンギンは消えてしまった。そして、想いに反応していた水や魚は消えていた。
「ふぅ、やったわね! 一か八かだったけど上手くいって良かったわ。あら?コルヴス君。膝に傷があるわね。救急箱あるけど・・・。」
「アルアートさん、夢世界の傷は回復の魔法が効くんです。」
ぷらりおにお願いして、コルヴスの膝に回復の魔法をかける。するとコルヴスの膝の痛みは消えた。
「どうしてばんそうこうとかいらないのかしら?」
「そうですね...見た目では傷に見えるんですけれど、夢世界で受けた攻撃は、体の痛みというより、精神の疲れにつながるんです。なので、攻撃を受け過ぎてしまうと意識を失ったりします。さっきお菓子をみんなで食べましたけど、お菓子には栄養があるので、美味しいという嬉しい気持ちで傷が治ったりもするんですよ。だから、お菓子があってラッキーでした。コルヴスくんの栄養ドリンクも良い例ですね。」
アルアートは、なるほど!とうなづき、救急箱をカバンにしまう。
「でも・・傷って目に見えたらつらいから、包帯とかで隠すことで楽になる事もあるかもね。今度一緒に行くときは救急箱の他に飴ちゃんとかお菓子も持っていくわね。教えてくれてありがと!」
話している間にぷらりおの準備が整い、3人は隣同士に並び、ぷらりおが魔法陣を描き始める。
「出口、分かったよ!これにて一件落着~!! マニの家にいったん送るよ!」
疲れていることもあり、光が温かく感じる。そして、意識が消えてる。
気付いたら4人は、マニの部屋にいた。無事に戻れたのである。
幸い、お母さんは買い出しに行っていたので、家には誰もいない状態だった。夢世界の冒険が入ってしまったので、休息をとるために今日は、もう休むことになった。アルアートがココアットに連絡を取ると、書物の塔は明日には開放されるとのこと。明日、書物の塔で待ち合わせすることになった。

「あの夢世界には星屑の欠片がなかった・・。どうして私たちはあの夢世界に行ったんだろう?」

マニは疑問に思ったが、考えているうちに疲れで眠りについてしまった。
小説,ぷらり、ね。 3244文字 

書物の塔へ


「書物の塔ってどんなところだっけ?」
「書物の塔はね、本がたくさんあるんだよ。図書館エリアといって、図書館として開放している場所もあるし、奥には星屑の街の歴史にまつわるすごい本が保管されている本の宝庫だって。」
「書物の塔・・か。図書館エリアには一般民のボクらも入れるとして、ボクたちが見たいものは、図書館にある小説ではなく、歴史にまつわる本だろう? 見られるのだろうか。」
ぷらりおが書物の塔について確認を取ると、マニは説明をする。その説明を聞いて、コルヴスは思っている事をつぶやく。書物の塔は、図書館エリアは、ごく普通の一般民でも入れるのだが、星屑の欠片についてや、星屑の街の歴史について書かれている本は書物の塔の奥に保管されている。
「・・どうなんだろう。書物の塔には代々書物の番人に選ばれた人が見張りをしているって聞いたよ。奥の本を見るには、番人さんの許可が必要だと思う。」
書物の塔には、本を見張るための番人がいる。マニは”星屑の街の案内”と書かれた本を取り出し、書物の塔のページを探す。あった!と一声上げると、そこには金髪でお団子結びをした女の子が写っている。名前の項目には、書物の番人ココアットと書かれている。
「書物の番人ココアットか。話が通じる相手だといいんだが。」
コルヴスもページをのぞき込む。ぷらりおもこんな人だったんだ!と目を丸くさせている。マニがページを見ながら説明する。
「ココアットさんは、頭が良くて小さいころは体が弱かったけれど、体の弱さの原因を自分で調べて医学的に貢献したの。そしてお医者様と力を合わせて病気を治したんだって。それで書物の番人に選ばれたって書いてあるね。博学な人だから、話は聞いてくれると思うんだけど・・。」
「どうだかな。頭がいいやつほど、自分の理論を持っていて、無視されることもあるんだぞ。交渉は慎重にしなくてはいけないな。」
コルヴスはマニの説明を聞いて、少しばかり溜息をする。現実はそう甘くはないと一言付け加える。それをみたぷらりおは、口をはさむ。
「コルヴス~!!やってみなきゃ分からないよ。何もしないままだったら、何もしないままって決まるけど、なにかしたら変わる未来もあるかもしれないよ?」
「・・まぁ、そうだな。やってみてみなければ、分からない。か。ボクは居候の身だし、マニやぷらりおには助けてもらった恩がある。二人の方針に従うさ。」
「それじゃあ、書物の塔に行こうか?」
三人は家を出る。三人で出かけるのは初めてだ。マニとぷらりおのコンビはよく見かけるものの、コルヴスは周りの人から見れば、誰?と疑問に思うだろう。通り行く先で、この子はどうしたの?と実際に聞かれた。もし近所の人に聞かれた時は”遠い親戚のコルヴスくんです。事情があって家の預かりになっています。”と言うようにとマニのお母さんから言われていた。夢世界のことを話すわけにはいかないし、夢世界なんて誰が信じるだろう。一般民からすれば歴史の話でしかない。自分たちの身を守るための嘘として、親戚の子として預かっているということにしようという決まりになったのだ。
書物の塔は、マニの家から北の方向だ。そんなに距離はないが、やっぱり遠足にはおやつが欲しいところだ。ぷらりおは隣にある洋菓子店プレルーナをじっと見ている。
「おやつ、やっぱり欲しいよね?」
マニは苦笑いをする。しかし洋菓子店プレルーナは行列ができていて入れそうにない。
「残念だったな、ぷらり。おやつはお預けだな。」
コルヴスがにやりと笑ったときのことである。洋菓子店プレルーナの周りをよく見ると。屋台のような、屋外に小さなお店がありそこにいる男性が手を振っているではないか。男性は唐揚げの被り物をしている。なぜ、洋菓子店の隣で唐揚げの被り物をしているのか。なぜ、自分たちに向けて手を振っているのか、頭の整理がつかなかった。コルヴスが通報するか?と言おうとしたその時。
「君たちは!マニちゃんとぷらりお君だね?いつも洋菓子店プレルーナにご来店くださり、どうもありがとう!!君は・・風のうわさで聞く、コルヴス君だね?いやぁ、どうも初めまして!私は人呼んで唐揚げ先生!唐揚げを愛し、唐揚げのおいしい食べ方を研究している先生だよ!」
「嘘だ・・。絶対、唐揚げを作るとか言いつつ、裏ではドーナッツを作ってるだろ・・。」
明るい唐揚げ先生。ちょっと冷めているコルヴス。温度差が出来ており、マニはぽかんとしている。コルヴスの冷たい言葉に負けず、唐揚げ先生は言う。
「何を言っているんだい?コルヴス君。大人は嘘をつかないんだよ。とまあ、見ての通り洋菓子店プレルーナはちょっと混んでいてね、今から並ぶと・・一時間ちょっとかかるね。」
「い、一時間!?」
ぷらりおは目を丸くしてびっくりした声で言う。一時間も待っていられないのだ。寄り道のつもりだったし、おやつはあきらめようとマニは目を向ける。
「まあまあ待ちたまえ。お菓子をよく買ってくれるお礼があるんだよ。受け取っておくれ。」
唐揚げ先生はおやつの詰まった袋をマニに渡すと”みんなには内緒にするんだぞ”と言い残し、煙玉をぽんと投げ、煙の中に消えて行ってしまった。
「な、なんだったんだろう・・・。」
「あ、やっぱりドーナッツが入ってる。あいつはドーナッツ先生に改名すべきではないか?」
「うーん・・そういう問題じゃない気がするなぁ。」
中身は美味しいドーナッツが入っていたし、いい人だったので、通報はやめるとして、三人は気を取り直し、書物の塔へ向かう。書物の塔は高くそびえ立っており、道に迷うことはなかった。
書物の塔に着いたものの、何人かざわついているのが見える。扉を見ては去る人が多いため、3人も扉を見てみることにした。張り紙が貼ってある。
「・・書物の塔、只今点検中です。一般の方の立ち入りを禁じます。書物の番人ココアット」
「せ、整備中!?どうしよう・・。」
書物の塔の中に入れないのだ。図書館エリアなら入れると思っていただけに、ショックが隠せない。全部立ち入り禁止。番人とも話せない。3人は落胆した顔をしていた。その時上から声が聞こえる。おてんばな少女の声が聞こえるではないか。上を眺めてみると、空飛ぶ鍵に乗った青い帽子、青いコートを羽織っている少女がいる。
「おーい!! 詳しい話をするからちょっと、場所移動しようかー? あの辺なんかどう?」
少女は、西の方を指さし飛んでいった。
「ま、魔法使い?」
「とりあえず行ってみるとするか。」
3人は場所を変えてその少女の後を追う。追いついてベンチがある場所までたどり着くと、少女は着地し、にっこり笑ってみせる。空のような水色のポニーテール、紫色の瞳。ポシェットを身に着けている。
「ごめんごめん!いきなり呼びつけちゃって。しかも空の上から。」
「人を呼ぶときはもう少し慎重になってもらいたいものだな。」
「ねえねえ、君たち!書物の塔に行きたいんでしょ?」
「な、なんでそれを・・・」
「なんでって?書物の塔の前に立ってるんだもん。みんな行きたい人の集いに決まってるでしょ?わっはっは!!」
少女は豪快に笑って見せるが、これでは誰を呼んでも問題なかったのではないだろうか。
「おっと!名前を言うのを忘れていたわね。私の名前はアルアート!ココアットとは幼馴染よ。だからココって呼んでるの!」
「アルアート・・さん・・?もしかして!アステリズムのアルアートさんですか?」
「アステリズム?星群か?」
「そういう意味もあるけど、芸能事務所だよ~!!アステリズムは、アイドルや歌手がたくさん所属する芸能事務所なんだよ。」
マニは慌てて説明を加える。アステリズムは、星群という意味を持つ芸能事務所。人気アイドルや歌手、芸能人と名前を1度でも聞いたことがある人は必ずいる大手の事務所だ。
「ご名答。私はプリティアイドルのアルアートちゃんよ。でもこの通り・・」
アルアートは自分の足を見せる。足は思ったように動かせないようだ。アルアートは、アステリズム所属のアイドルもとい芸能人だ。
「ごめんごめん、こんなの見せちゃって。私はね、足が不自由だから魔法の鍵がないと自由に移動できないの。アステリズムとこのエリアを行き来できるのは、この子のおかげってわけ!」
魔法の鍵は、魔法道具と呼ばれる魔力のこもった発明品のひとつである。誰が考えたのか、誰が作り出したのかは不明で、いつの間にか現代に広まって今に至る。アルアートの持つ魔法の鍵は、実家が鍵屋ということもあり、先祖代々伝わっているものだそうだ。
「アルアートさんは、ココアットさんのことを知っているんですか?」
「知ってるもなにも、幼馴染って言ったじゃない~!バリバリ知ってるわよ。点検中っていうのも嘘ね。ココったら自分に自信がなくなると、いっつもそうするのよ。だから・・ちょっと待ってね。」
アルアートは、また道具を取り出す。星の光が出る。これは星屑の欠片ではなく”ほしつむぎ”と呼ばれる星屑の街で普及している携帯電話のようなものだ。
「もしもし?ココ?アルアートだけど。あのねー!!書物の塔を利用したいやじうまさんがわっさわさいるわよ。そろそろ鍵を開ける事ね?は?もう少し時間が掛かるし、点検も兼ねているのは本当だから待ってほしい?だーー!!ご用事ありの人がいっぱいいるんだから、早くしてよね!!」
・・アルアートの早口言葉が町中に響く。コルヴスがそっと、ココアットも苦労人だなと言ったが、アルアートの声にかき消されて誰も聞いていなかった。
「ダメねえ、時間が掛かるって。じゃあさ!ご挨拶も兼ねて、天の川橋で少し星でも見ない? アステリズムから渡ってきたとき、すごくきれいだったわよ!」
天の川橋は、この住宅街とアステリズムを結ぶ大きな橋だ。この橋がある空間は、常に星空が見えており、美しい景色を見ることが出来る橋でも有名だ。観光客にも人気の場所だ。書物の塔が点検中である以上、やる事もない。ココアットの幼馴染であるアルアートから話を聞くチャンスだと思い、3人は天の川橋でアルアートと一緒に星を眺めることにした。
小説,ぷらり、ね。 4170文字 

おともだちで家族


「あら、マニちゃん。そちらの男の子はどうしたのかしら?」
「こ、コルヴスく・・ん・・です・・」
夢世界から戻ってきたものの、まだ夜は明けていなかった。マニは布団を一人分押入れから出し、コルヴスを布団で寝かせたのだった。そして翌日。年頃の少女が見知らぬ少年と同じ部屋で寝ているのだ。母親が気付かないわけがない。どうごまかそう、どう言えばいいのか、手さぐりになりながら、マニとぷらりおは冷や汗をかいている。
「えっとー、星を見に行ったら、お友達になったの!お外は寒いからお泊りパーティを・・」
「ぷらりちゃん、嘘は、よくないわよ?」
「お、お母さん!あ、あのね!コルヴスくんはお父さんとお母さんが・・」
どんな言い訳をしても、マニのお母さんはにっこり笑って、表情を変えない。どうして黙っていたのかな?と言わんばかりに怒っているようにも感じる。
「あのね、マニちゃん。お母さんはね、マニちゃんとぷらりちゃんが魔法陣に入って夢世界に行っているのを知っていました。隠さないで本当のことを話してね。そしてお泊りパーティのこともね。」
もう嘘を言っても仕方がない。マニは本当のことを話した。星屑の街にある星屑の欠片が散り散りになってしまったこと。そのことは、ぷらりおの持つ魔力で気づいたこと。夢世界で星屑の欠片を見つけたこと。星屑の欠片を集めようと決めたこと。昨晩行った夢世界でコルヴスと出会ったこと。嘘は一つもつかなかった。そしてコルヴスが口を開いた。
「母上殿。ボクがコルヴスです。ごめんなさい。でも、マニとぷらりおは行き場のないボクを、助けてくれたんだ。悲しい気持ちでいっぱいだったボクを布団で寝かせてくれたんだ。だから、感謝して・・います。男と女が同じ部屋で寝るのは、よくないって知ってます。だから、ボクは、話が済んだら帰ります。」
「コルヴスくん・・」
まっすぐな表情でマニのお母さんに謝るコルヴスを悲しそうな目でマニとぷらりおは見つめる。お母さんは、そんな3人を見て腕を組み、考えをまとめて言う。
「そうね。2階のお父さんの部屋が空いているわ。コルヴス君はそこを使うといいわ。さすがにマニちゃんと同じ部屋はお母さんも心配になっちゃうから。」
「お、お母さん!?いいの?」
マニたちは目を丸くする。
「いいの。コルヴス君は悪い子に見えないし、そんな悲しい目をして嘘をつく子がどこにいますか。それにね、劇団アリエスの施設に入るとしてもコルヴス君は劇団アリエスの団員になりたいわけじゃないでしょう?」
「はい・・正直なところ、劇団はちょっと・・」
コルヴスは困った様子で言う。そして劇団アリエスについてお母さんは説明する。
「劇団アリエスの施設は、団員に加入することが条件で提供されている施設ね。食堂やみんなの個室があってすごく過ごしやすいけれど、それは表現活動を頑張ってほしいからであって、表現活動をする気がない場合は入れないの。家族がいない子で、表現活動をしない場合は、一般の児童施設に入所するのが普通の流れね。」
「そ、そうなんだ・・ぷらり、全然知らなかった。」
「お母さんくらいの年齢で知っていればいいことなのよ。でもね、子供を預かるっていうのはそういう事だから。2人には話しておこうかなって思ったのよ。コルヴス君を預かる手続きはきちんとやっておくから、3人仲良くするのよ。」
お母さんは、優しく微笑む。その表情を見て、マニとぷらりおは、ハイタッチをして、手を取ってくるくると踊る。
「やったぁ!コルヴスくんと一緒に暮らせるんだね!」
「うん!!よかった!」
急に2人が喜びコルヴスは、ぽかんとしている。コルヴスの手にマニの手が触れる。
「これからよろしくね、コルヴスくん。」
「あ、ああ、色々と手間をかけてすまない。よろしく・・。」
3人は2階の使われていないマニのお父さんの部屋に向かう。お父さんの部屋には、ベッドとピアノが静かに置かれている。3人は部屋の掃除を始める。家族写真を見たコルヴスはマニにお父さんのことを尋ねる。
「マニの父上殿はどんな人だ?」
「えっとね、舞台監督をしていて忙しいかな。年に1回家に顔を出せるか分からないくらい。」
「有名なのか?」
「うーん・・変わり者という意味では目立っていると思うけれど、有名人というよりは、目立たないとしても自分の世界を表現するために力を貸してくれる人のことをいっぱい大切にする人なんだ。その姿を見た人が、またお父さんの輪に入っていく感じかな。」
マニがはたきを動かしながら、お父さんのことを誇らしげに喋る。ぷらりおもうんうんと頷いている。お父さんの私物はあまり置かれていないのだが、念のためにお母さんにも確認を手伝ってもらう。そして、残っていた資料など、コルヴスが触ってはいけないものは部屋から出してもらえることになった。家具などはあまりないので、配置はそのまま。布団もお日様にあてて干して準備は万端。これでコルヴスの部屋を一日かけて完成させたのだった。
「みんな、よくがんばったわね!」
「母上殿が手伝ってくれたおかげ・・です。ありがとうございます。」
「もう、母上殿じゃなくてお母さんでいいのよ?」
「ボクなりの礼儀なのでそれは・・」
マニとぷらりおは、コルヴスの意外な一面を見て思わず笑ってしまう。コルヴスは照れ臭そうにしている。四人は食卓で晩御飯をとりながら会話を弾ませる。
「ところで。星屑の欠片については、どこまで知っているのかしら?」
「絵本で見た・・範囲の事と、ぷらりおが不思議な力で感じ取れることくらい・・しか・・分からない・・かな。」
「あら。困ったわね。それじゃあ、本がいっぱいある書物の塔でお勉強したらどうかしら?」
まるで星屑の欠片集めに参加したかのようにお母さんは提案する。書物の塔とは、星屑の街の住宅街にそびえ立つ大きな塔のことだ。周りには不思議な本が飛んでおり、中に入ると、たくさんの昔の本が保管されている本の宝庫だ。図書室として使えるところもあるので、勉強にはもってこいの場所だ。
「書物の塔・・いいかも!お母さんありがとう!明日行ってみるね。」
「しかし、母上殿。なぜ、ボクたちを止めたり怪しく思わないのだ?」
「それはね、お母さんは三人を信じているからよ。星屑の欠片のことは、お母さんもよくわからないけれど、ぷらりちゃんのような妖精がおかしいって思うなら、大変なことなのでしょう?応援しているからね。」
四人は分担して、食後の片づけをする。お皿を洗い、テーブルを拭き、椅子を元に戻す。そして、それぞれの部屋に向かう。
「おやすみなさい、コルヴスくん。」
「ああ、また明日な。マニ、ぷらりお。」
「コルヴス~!おやすみ~!」
布団に入り、書物の塔へ向かうことを考える。
「書物の塔・・かあ・・手掛かりが見つかるといいな。」
ぷらりおの寝息を聞きながらマニは今日のことを振り返る。お母さんに本当のことを話したこと。本当のことを話した結果、コルヴスも一緒に暮らせるようになったこと。みんなで部屋を片付けたこと、食事をしたこと。家族が1人増えて、嬉しい気持ちでいっぱいになったまま、マニは眠りについた。
小説,ぷらり、ね。 2956文字