Stardustbakery星屑べーかりー

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No.3

おともだちで家族


「あら、マニちゃん。そちらの男の子はどうしたのかしら?」
「こ、コルヴスく・・ん・・です・・」
夢世界から戻ってきたものの、まだ夜は明けていなかった。マニは布団を一人分押入れから出し、コルヴスを布団で寝かせたのだった。そして翌日。年頃の少女が見知らぬ少年と同じ部屋で寝ているのだ。母親が気付かないわけがない。どうごまかそう、どう言えばいいのか、手さぐりになりながら、マニとぷらりおは冷や汗をかいている。
「えっとー、星を見に行ったら、お友達になったの!お外は寒いからお泊りパーティを・・」
「ぷらりちゃん、嘘は、よくないわよ?」
「お、お母さん!あ、あのね!コルヴスくんはお父さんとお母さんが・・」
どんな言い訳をしても、マニのお母さんはにっこり笑って、表情を変えない。どうして黙っていたのかな?と言わんばかりに怒っているようにも感じる。
「あのね、マニちゃん。お母さんはね、マニちゃんとぷらりちゃんが魔法陣に入って夢世界に行っているのを知っていました。隠さないで本当のことを話してね。そしてお泊りパーティのこともね。」
もう嘘を言っても仕方がない。マニは本当のことを話した。星屑の街にある星屑の欠片が散り散りになってしまったこと。そのことは、ぷらりおの持つ魔力で気づいたこと。夢世界で星屑の欠片を見つけたこと。星屑の欠片を集めようと決めたこと。昨晩行った夢世界でコルヴスと出会ったこと。嘘は一つもつかなかった。そしてコルヴスが口を開いた。
「母上殿。ボクがコルヴスです。ごめんなさい。でも、マニとぷらりおは行き場のないボクを、助けてくれたんだ。悲しい気持ちでいっぱいだったボクを布団で寝かせてくれたんだ。だから、感謝して・・います。男と女が同じ部屋で寝るのは、よくないって知ってます。だから、ボクは、話が済んだら帰ります。」
「コルヴスくん・・」
まっすぐな表情でマニのお母さんに謝るコルヴスを悲しそうな目でマニとぷらりおは見つめる。お母さんは、そんな3人を見て腕を組み、考えをまとめて言う。
「そうね。2階のお父さんの部屋が空いているわ。コルヴス君はそこを使うといいわ。さすがにマニちゃんと同じ部屋はお母さんも心配になっちゃうから。」
「お、お母さん!?いいの?」
マニたちは目を丸くする。
「いいの。コルヴス君は悪い子に見えないし、そんな悲しい目をして嘘をつく子がどこにいますか。それにね、劇団アリエスの施設に入るとしてもコルヴス君は劇団アリエスの団員になりたいわけじゃないでしょう?」
「はい・・正直なところ、劇団はちょっと・・」
コルヴスは困った様子で言う。そして劇団アリエスについてお母さんは説明する。
「劇団アリエスの施設は、団員に加入することが条件で提供されている施設ね。食堂やみんなの個室があってすごく過ごしやすいけれど、それは表現活動を頑張ってほしいからであって、表現活動をする気がない場合は入れないの。家族がいない子で、表現活動をしない場合は、一般の児童施設に入所するのが普通の流れね。」
「そ、そうなんだ・・ぷらり、全然知らなかった。」
「お母さんくらいの年齢で知っていればいいことなのよ。でもね、子供を預かるっていうのはそういう事だから。2人には話しておこうかなって思ったのよ。コルヴス君を預かる手続きはきちんとやっておくから、3人仲良くするのよ。」
お母さんは、優しく微笑む。その表情を見て、マニとぷらりおは、ハイタッチをして、手を取ってくるくると踊る。
「やったぁ!コルヴスくんと一緒に暮らせるんだね!」
「うん!!よかった!」
急に2人が喜びコルヴスは、ぽかんとしている。コルヴスの手にマニの手が触れる。
「これからよろしくね、コルヴスくん。」
「あ、ああ、色々と手間をかけてすまない。よろしく・・。」
3人は2階の使われていないマニのお父さんの部屋に向かう。お父さんの部屋には、ベッドとピアノが静かに置かれている。3人は部屋の掃除を始める。家族写真を見たコルヴスはマニにお父さんのことを尋ねる。
「マニの父上殿はどんな人だ?」
「えっとね、舞台監督をしていて忙しいかな。年に1回家に顔を出せるか分からないくらい。」
「有名なのか?」
「うーん・・変わり者という意味では目立っていると思うけれど、有名人というよりは、目立たないとしても自分の世界を表現するために力を貸してくれる人のことをいっぱい大切にする人なんだ。その姿を見た人が、またお父さんの輪に入っていく感じかな。」
マニがはたきを動かしながら、お父さんのことを誇らしげに喋る。ぷらりおもうんうんと頷いている。お父さんの私物はあまり置かれていないのだが、念のためにお母さんにも確認を手伝ってもらう。そして、残っていた資料など、コルヴスが触ってはいけないものは部屋から出してもらえることになった。家具などはあまりないので、配置はそのまま。布団もお日様にあてて干して準備は万端。これでコルヴスの部屋を一日かけて完成させたのだった。
「みんな、よくがんばったわね!」
「母上殿が手伝ってくれたおかげ・・です。ありがとうございます。」
「もう、母上殿じゃなくてお母さんでいいのよ?」
「ボクなりの礼儀なのでそれは・・」
マニとぷらりおは、コルヴスの意外な一面を見て思わず笑ってしまう。コルヴスは照れ臭そうにしている。四人は食卓で晩御飯をとりながら会話を弾ませる。
「ところで。星屑の欠片については、どこまで知っているのかしら?」
「絵本で見た・・範囲の事と、ぷらりおが不思議な力で感じ取れることくらい・・しか・・分からない・・かな。」
「あら。困ったわね。それじゃあ、本がいっぱいある書物の塔でお勉強したらどうかしら?」
まるで星屑の欠片集めに参加したかのようにお母さんは提案する。書物の塔とは、星屑の街の住宅街にそびえ立つ大きな塔のことだ。周りには不思議な本が飛んでおり、中に入ると、たくさんの昔の本が保管されている本の宝庫だ。図書室として使えるところもあるので、勉強にはもってこいの場所だ。
「書物の塔・・いいかも!お母さんありがとう!明日行ってみるね。」
「しかし、母上殿。なぜ、ボクたちを止めたり怪しく思わないのだ?」
「それはね、お母さんは三人を信じているからよ。星屑の欠片のことは、お母さんもよくわからないけれど、ぷらりちゃんのような妖精がおかしいって思うなら、大変なことなのでしょう?応援しているからね。」
四人は分担して、食後の片づけをする。お皿を洗い、テーブルを拭き、椅子を元に戻す。そして、それぞれの部屋に向かう。
「おやすみなさい、コルヴスくん。」
「ああ、また明日な。マニ、ぷらりお。」
「コルヴス~!おやすみ~!」
布団に入り、書物の塔へ向かうことを考える。
「書物の塔・・かあ・・手掛かりが見つかるといいな。」
ぷらりおの寝息を聞きながらマニは今日のことを振り返る。お母さんに本当のことを話したこと。本当のことを話した結果、コルヴスも一緒に暮らせるようになったこと。みんなで部屋を片付けたこと、食事をしたこと。家族が1人増えて、嬉しい気持ちでいっぱいになったまま、マニは眠りについた。
小説,ぷらり、ね。 2956文字