Stardustbakery星屑べーかりー

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No.6, No.5, No.4, No.3, No.2, No.16件]

ひらけ!書物の塔


マニとコルヴス、そしてぷらりおは書物の塔の前に立っている。空からアルアートが魔法の鍵に乗ってやってきて全員集合。
「コ~コ~・・!!書物の塔ずっと閉めてたの許さないんだから!私がシメてやるわ!」
「今日開いたばかりということは、たくさん人が集まる可能性があるな。さっさとココアットに会いに行くとするか。」
「それは大丈夫。ココに会えるのは私たちが先客で、あとの人は図書館を使う人でいっぱいだから。」
アルアートのお調子者な発言は風と共に流れていった。今回書物の塔に行くための目的。図書館エリアより奥にある本を読むために書物の番人ココアットの許可を取りに来たのである。
「開け!ゴーマー!!」
アルアートが掛け声を開け、扉を開ける。扉はゆっくりと開き足を踏み入れる。青い壁、青い床、水路もあり、まるで海の中に入ったかのような空間が広がっていた。
天井を眺めると、魚の光が泳いでいる。
「きれい・・!」
「書物の塔は初めてかしら? 中々きれいな建物よね。」
アルアートが書物の塔の高い天井まで魔法の鍵で飛んでみせる。
すると、奥の階段から足音が聞こえてくる。
金髪のお団子結び、紫色の衣服を着た少女がこちらまでやってくる。青い瞳がこちらを冷たい目線で見つめている。
「・・アル。ちょっとは静かにしてよ。」
「あ、ごめん。はしゃぎすぎた。」
その場の空気が気まずくなる。
「すみません。場所を変えましょう。」
少女が奥に案内する。階段を上った先には番人の部屋があった。少女は椅子に腰をかける。椅子に腰をかけたことで、番人ココアットは彼女なのだと三人は確信した。アルアートは、むすっとしていてこちらを見ようとしない。
「御用があるのは、あなたたちですね。書物の番人、ココアットは確かにぼくです。さて、お忙しい中、来て頂き恐縮ですが。」
「ぼくのお団子結びとかそういうのが珍しくていらしたなら帰ってもらいますよ。」
「違うわよ!マニちゃんもコルヴスくんもぷらりちゃんも!星屑の街がおかしなことになっててその原因を調べるために、ココや書物の塔にある本が見たくてきたの!そんな理由じゃないわよ、ばか!」
マニはアルアートを止めるように喋りだす。
「ココアットさん、初めまして。私、マニです。最近、星屑の街の表現者たちが暗い気持ちや悩みを抱えている事案が増えていることはご存知でしょうか?」
「ええ、知っています。でもぼくに出来る事は何もないでしょう。ぼくはカウンセラーではないし、お医者さんでもありません。」
「・・星屑の欠片が散り散りになったことで、街を守っている結界がなくなったために起きている事、といってもお前に出来る事はないのか?」
「・・!?どういう、ことですか・・・。」
ココアットは目を丸くする。そして相棒とみられるくまのぬいぐるみをぎゅっと握っている。
「確かにここ最近の星屑の街は異常でした。表現者の悩みもそうですが・・表現者を応援する方々のことを応援者と呼びますよね。応援者の行動もちょっと引っかかるものがあるのです。応援者が表現者との距離感が取れない事で、警備員の仕事が急激に増えたりしているとも聞いています。今までそんなこと一度もなかったのに。」
「それも結界がないから・・だと思う。でもね。ぷらりたちの知識だけじゃよくわからないの。ぷらりは夢世界にみんなを連れていくことが出来るけれど、自分たちだと何もわからない。だから助けて!って言ってるの。」
ぷらりおは、ココアットの抱いているくまのぬいぐるみをつんつんと当てながら喋る。
「夢世界に仲間を誘う妖精がいるのですね。分かりました。みなさんのお話を信じましょう。アルも冷たい態度を取ってごめんね。」
「ううん、いいの。私も怒り過ぎたわ。」
「さあ、タイニー!!」
ココアットの抱いていたくまのぬいぐるみ”タイニー”はココアットの声に応じて大きくなる。大きさで言えば、ココアットがちょうど乗れるくらいだ。大きくなったタイニーは、天井をボタンを押すような力で叩いてみせる。すると、天井に大きな壁が開く。星型の穴がいくつも開いているではないか。プラネタリウムのようにも見える美しい光景だが、この穴は見覚えがある。
「・・星屑の・・欠片が入りそう。」
「ええ、この壁は、星屑の欠片をはめるようにできています。結界も書物の塔を拠点に作っていたものですから、ぼくも違和感があったのは気付きました。そしてマニちゃん、あなたは星屑の欠片をお持ちですね?ふしぎなエネルギーを感じます。」
ココアットが言うと、マニが持っていた星屑の欠片がひかりだし、天井へ昇っていく。星屑の欠片はがっちりとはまり、離れようとしない。そして優しく光りだした。
「ここが本来の星屑の欠片の場所なんだね。なんだかうれしそう。」
「星屑の欠片が一つ増えるたびにここに来たほうがいいのか?だとしたら手間だな。」
「いえ、それは大丈夫でしょう。星屑の欠片が二つあるのでその欠片を道しるべに他の欠片も戻ってくることが出来るはず。ただ、夢世界にある場合、帰り道が複雑に入り組んでいるので、自分たちで探す必要があります。」
「それならだいじょーぶよ!マニちゃんとコルヴス君とぷらりちゃんは夢世界を冒険できるんだから!この二つの欠片もマニちゃんたちが見つけたんだもの。」
「ほ、本当ですか・・。ぼくもここに留まって本ばかり読んでもダメですね。本は歴史を教えてくれるけれど、今のことは教えてくれない。今ばかりは自分で足を運んで見に行かなくては。」
ココアットは、タイニーの名前を呼ぶ。タイニーはみるみる元通りの大きさに戻り、天井の扉もしまった。
「改めまして・・書物の番人ココアットです。マニちゃんコルヴスくん、ぷらりおくん、ぼくでよければ力を貸しましょう。魔法の知識があるので、お役に立てるように頑張ります。宜しくお願いします。」
ココアットが一礼すると、ぷらりおはココアットの頭をなでた。
「ぷらりおだよ、よろしくね。タイニーもよろしくね。」
「マニです!ココアットさんが力を貸してくれるなんて嬉しい!宜しくお願いします。」
「コルヴスだ。ところで・・」
「お前は、男だよな?」
コルヴスの一言に対してマニとぷらりおは、ぽかんとする。
「え、そ、そうなんですか?ココアットさん!?」
「は、はい・・。このお団子結びはアルが小さいころにしてくれたものを自分でもそのまま続けてしているもので・・。その影響で女の子だと間違えられるのですが、男です・・。あはは・・。」
「ええーーーーーーー!!!!」
書物の塔に今までにない大きな声が響いた。
「星屑の街の歴史・・もそうなのですが、劇団アリエスやアステリズムは表現者がたくさんいます。異変がないのか気になりますね。アルは何も聞いてない?」
「アステリズムは特にないわよ。」
「そうか・・。ぼくの用事に付き合わせて悪いのですが、劇団アリエスの方に脚本を届けなければいけないのです。もし宜しければ様子を見に行くのも兼ねて、お付き合い頂けないでしょうか?」
「分かりました。行ってみましょう。・・私たちは入れるかな?」
「それなら大丈夫です。ぼくが同伴しているならば、関係者として入れて頂けるはずです。」
「ありがとうございます!」
「それでは明日書物の塔の1階で待ち合わせをお願いしてもいいでしょうか?お弁当も準備したほうがいいでしょうか?お菓子も必要ですか!?」
ココアットは、嬉しそうに喋る。
「なんか急に目が輝きだしたな。」
「ココは、番人になってからあまり外に出られなかったのよ。だからすごく嬉しくなるとああなるのよ・・。」
ココアットと待ち合わせの約束をした後、書物の塔の一階に戻る。すると、入り口付近にアルアートのことをじっとみる青年がいる。夜空のような藍色の髪、月のような黄色い目。白いコートを羽織っている。
「や、やだ~!モテ期到来かしら?」
アルアートは言っていることとは真逆に冷や汗をかいている。青年がこちらに近寄ってくる。
「アルアート!やっと見つけた!」
「うげ・・ゼッくん~・・お疲れ様で~す・・・。」
「君たち、アルアートをみつけてくれたんだね。ありがとう。」
穏やかな声で青年は話しかける。マニは恋人なのかな?と感じたのだが、そんな感じでもない。
「お二人はどういったご関係で・・」
「ああ、ごめん。僕はアステリズム所属警備員のゼクス。おまわりさんみたいな感じかな。アルアートがずーっと外に出たままだから、探しに行くように頼まれて星屑の街をあちこち探していたんだ。」
ゼクスと名乗る青年はアステリズム所属の警備員。ということは、アルアートは抜け駆けをしていたのだ。つまり・・と考えるとマニとコルヴス、ぷらりおの目線はちょっと冷たい。
「わ、わーかったわよ!ちゃんと帰ります~!でも溜めていた事務仕事はちゃんと片づけてから抜けてきたわよ?」
「でも、アステリズムでも応援者との距離感厳重注意って注意喚起が出ていて危ないから、1人の外出は控えたほうがいいよ。じゃあ、アステリズムまでアルアートを送るよ。君たちどうもありがとう。」
「いえ・・。」
「見つかったからには仕方ないけど。マニちゃんコルヴス君、ぷらりちゃん。また一緒に冒険しましょうね!ぜったいよ!」
アルアートとゼクスはゆっくりと帰っていく。マニとコルヴス、ぷらりおも書物の塔から出た。もう夕焼け空になっていた。
「ココアットさんって男の人だったんだ・・」
「今日の収穫はそれでいいのか、マニ?」
「ち、違うよぉ。今まで女の人だと思ってたからびっくりしただけだよ。」
コルヴスは、ふーんと一息つくと、先にてくてくと歩いて行ってしまった。
マニとぷらりおも追いかけていく。
明日は、いよいよ劇団アリエスに向かうことになったけれど、関係者として入るのは初めて。わくわくするなぁ。
小説,ぷらり、ね。 4063文字 

くるくるまわって、ここはどこ?


「だーーー!! 何なのよ、ここは!!くるくる回ってばっかりじゃない!!」
アルアートの声が夢世界の夜空に響く。ここは、天の川橋。のはずだが、天の川橋の入り口に入った瞬間、不思議な力に吸い込まれてしまい、天の川橋とそっくりな夢世界にマニ、コルヴス、ぷらりお、アルアートの4人は迷い込んでしまった。ぷらりおの魔法の力で星屑の街に戻れないか、試してみたのだが・・
「出入り口がふさがってて、ぷらりの魔法の力が弾かれちゃうよぉ。この夢世界の奥まで行けば、手がかりがあるかもだけど・・。」
夢世界の出入り口がふさがってしまい、星屑の街にも戻れない。夢世界の奥を目指して4人は進んでいる。せっかく星を眺めるはずが夢世界の探索になってしまった。アルアートには、夢世界のこと。星屑の街のこと。星屑の欠片のこと。全部話した。
「面白そうじゃない!それでココに用事があったのね?ココなら書物の塔の本、全部把握してるだろうから、なんとしても説得させましょ!私も力になるわ。」
今の状況は良くないのだが、アルアートの笑顔や明るさを見ていると、普段の状況と変わらない気がしてしまう。理解を得られたこと、ココアットの説得に力を貸してくれるとのことで、マニはとても心強いと安心した。
あたりは水たまりで溢れている。雨は降っていない静かな空間だ。歩いていると、想いが形になった水が浮かぶ。水はコルヴスに襲い掛かってきた。
「ふっ!」
コルヴスは手持ちの羽ペンで暗闇の魔法を描き反撃した。マニもぷらりおと一緒に光の魔法で応戦する。
「わー!!ファンタジー!!」
アルアートが歓声を上げたその時、残りの水がアルアートにとびかかってくる。マニがアルアートの名前を言おうとしたその時。
「私もこういう世界!あこがれていたのよねえ!」
アルアートは、カバンの中から鍵を取り出し、水に投げつける。鍵が水に触れた瞬間、鍵が光りだし、水と一緒にはじけて消えた。辺りは、想いの気配が消え、静かになった。
「か、鍵が・・!!」
マニが思わず声に出すとアルアートは笑って言う。
「ふっふっふー!私の実家は魔法の鍵屋さん。訳ありB級鍵は魔力を込めて護身用に使っていいってお父さんから渡されているのよね。」
鍵をじゃらじゃらと音を立てながらアルアートは手に取ってみせる。
「その魔法の鍵も実家で作られたものなのか?」
コルヴスの質問に対して、アルアートは、渋い顔をして答える。
「うーん・・違うのよね!家に何故かあったらしいのよ。最初は展示してたんだけど、私この通り足が不自由だから動くために使いなさいって、使用許可もらって使ってるわけ。」
「アルアートさんのご実家が、鍵屋さんって初めて知りました・・。」
「あははは、魔法の鍵に乗り始めてから知った人が多いのよ。でも鍵共々知っていただけて光栄に思うわ。」
4人は気を取り直して、奥へ、奥へ、と進んでいく。歩くたびに水が浮かび上がったり、水辺の影響か魚が浮かんでいたりしたが、アルアートの鍵が飛び、マニ、ぷらりお、コルヴスも魔法で応戦したので、場慣れしている4人の敵ではなかった。夢の世界とはいえど、空腹に関しては現実とリンクしているので、早く出なければいけない。幸い、唐揚げ先生からのお菓子の差し入れがあり量も4人で食べるにはちょうどいい量だった。
「さっさと出るんだろ。そろそろ本気を出すか。」
「こ、コルヴスくん・・それ・・・。」
「栄養ドリンクだよね・・?」
コルヴスが口に何か加えているかと思って見てみれば、どこから取り出したのかわからない栄養ドリンクだった。すごく苦そうである。しかし、コルヴスは動じずそのまま飲み干してしまった。
「ごみはどうすればいいんだ・・?」
「夢世界とはいえポイ捨てはダメよ。ちゃんと帰ってごみ箱に捨てましょうね!」
アルアートはカバンから袋を取り出しお菓子のごみや栄養ドリンクの瓶を分別して捨てる。
「アルアートさんってマメなんだね。明るいけど・・・」
「そうよ?趣味は雑誌や新聞のスクラップ、付箋集めに・・・」
「誰も聞いてない。」
コルヴスが話を打ちとめ、更に進んでいく。行き止まりということは、ここが奥ということになる。アルアートは、大きな声で叫ぶ。
「はーやーくーここから出しなさーい!!!」
声は虚しく、夜空に響くだけかと思えば。どたんっ!空から大きなペンギンが降ってきた!そしてペンギンは喋る。
「ねえねえ、書物の塔がふさがっているんだよね・・時間あるんだよね・・さみしいからぼくたちと遊んでよ!」
ペンギンは、水の魔法を使って4人に襲い掛かってくる。
「ずいぶんと乱暴な遊びだな! お前を倒して現実の街に帰らせてもらうぞ!」
コルヴスが反撃をする。アルアートは魔法の鍵で空を飛び、ペンギンをかく乱させる。マニはコルヴスに加勢する。水がはじける、水をよける、水にあたってみるとすごく痛い。誰が何のために、マニたちを夢世界に誘ったのかは分からないが、ここから出なければ書物の塔に行くことが出来ない。ペンギンは大きいのであまり早く動くことはできないのが救いだった。もし早く動いていたら、子供の体力ではよけきれない。アルアートも魔法の鍵から落ちてしまえば動けなくなってしまう。そろそろ体力的に限界とマニが思ったその時だった。アルアートがペンギンを囲むように鍵を投げ始める。
「マニちゃん、ぷらりちゃん!コルヴス君!離れて!私のとっておきをお見舞いするわよ!」
赤い鍵、青い鍵、黄色い鍵・・さまざまな鍵がペンギンを囲む。そして、囲み終わったその時、光が鍵をつなぎ、魔法陣が生まれる。
「魔法の鍵が織りなす連弾!!くらいなさいっ!!」
虹色の光が大きな体のペンギンを包み、光とともにペンギンは消えてしまった。そして、想いに反応していた水や魚は消えていた。
「ふぅ、やったわね! 一か八かだったけど上手くいって良かったわ。あら?コルヴス君。膝に傷があるわね。救急箱あるけど・・・。」
「アルアートさん、夢世界の傷は回復の魔法が効くんです。」
ぷらりおにお願いして、コルヴスの膝に回復の魔法をかける。するとコルヴスの膝の痛みは消えた。
「どうしてばんそうこうとかいらないのかしら?」
「そうですね...見た目では傷に見えるんですけれど、夢世界で受けた攻撃は、体の痛みというより、精神の疲れにつながるんです。なので、攻撃を受け過ぎてしまうと意識を失ったりします。さっきお菓子をみんなで食べましたけど、お菓子には栄養があるので、美味しいという嬉しい気持ちで傷が治ったりもするんですよ。だから、お菓子があってラッキーでした。コルヴスくんの栄養ドリンクも良い例ですね。」
アルアートは、なるほど!とうなづき、救急箱をカバンにしまう。
「でも・・傷って目に見えたらつらいから、包帯とかで隠すことで楽になる事もあるかもね。今度一緒に行くときは救急箱の他に飴ちゃんとかお菓子も持っていくわね。教えてくれてありがと!」
話している間にぷらりおの準備が整い、3人は隣同士に並び、ぷらりおが魔法陣を描き始める。
「出口、分かったよ!これにて一件落着~!! マニの家にいったん送るよ!」
疲れていることもあり、光が温かく感じる。そして、意識が消えてる。
気付いたら4人は、マニの部屋にいた。無事に戻れたのである。
幸い、お母さんは買い出しに行っていたので、家には誰もいない状態だった。夢世界の冒険が入ってしまったので、休息をとるために今日は、もう休むことになった。アルアートがココアットに連絡を取ると、書物の塔は明日には開放されるとのこと。明日、書物の塔で待ち合わせすることになった。

「あの夢世界には星屑の欠片がなかった・・。どうして私たちはあの夢世界に行ったんだろう?」

マニは疑問に思ったが、考えているうちに疲れで眠りについてしまった。
小説,ぷらり、ね。 3244文字 

書物の塔へ


「書物の塔ってどんなところだっけ?」
「書物の塔はね、本がたくさんあるんだよ。図書館エリアといって、図書館として開放している場所もあるし、奥には星屑の街の歴史にまつわるすごい本が保管されている本の宝庫だって。」
「書物の塔・・か。図書館エリアには一般民のボクらも入れるとして、ボクたちが見たいものは、図書館にある小説ではなく、歴史にまつわる本だろう? 見られるのだろうか。」
ぷらりおが書物の塔について確認を取ると、マニは説明をする。その説明を聞いて、コルヴスは思っている事をつぶやく。書物の塔は、図書館エリアは、ごく普通の一般民でも入れるのだが、星屑の欠片についてや、星屑の街の歴史について書かれている本は書物の塔の奥に保管されている。
「・・どうなんだろう。書物の塔には代々書物の番人に選ばれた人が見張りをしているって聞いたよ。奥の本を見るには、番人さんの許可が必要だと思う。」
書物の塔には、本を見張るための番人がいる。マニは”星屑の街の案内”と書かれた本を取り出し、書物の塔のページを探す。あった!と一声上げると、そこには金髪でお団子結びをした女の子が写っている。名前の項目には、書物の番人ココアットと書かれている。
「書物の番人ココアットか。話が通じる相手だといいんだが。」
コルヴスもページをのぞき込む。ぷらりおもこんな人だったんだ!と目を丸くさせている。マニがページを見ながら説明する。
「ココアットさんは、頭が良くて小さいころは体が弱かったけれど、体の弱さの原因を自分で調べて医学的に貢献したの。そしてお医者様と力を合わせて病気を治したんだって。それで書物の番人に選ばれたって書いてあるね。博学な人だから、話は聞いてくれると思うんだけど・・。」
「どうだかな。頭がいいやつほど、自分の理論を持っていて、無視されることもあるんだぞ。交渉は慎重にしなくてはいけないな。」
コルヴスはマニの説明を聞いて、少しばかり溜息をする。現実はそう甘くはないと一言付け加える。それをみたぷらりおは、口をはさむ。
「コルヴス~!!やってみなきゃ分からないよ。何もしないままだったら、何もしないままって決まるけど、なにかしたら変わる未来もあるかもしれないよ?」
「・・まぁ、そうだな。やってみてみなければ、分からない。か。ボクは居候の身だし、マニやぷらりおには助けてもらった恩がある。二人の方針に従うさ。」
「それじゃあ、書物の塔に行こうか?」
三人は家を出る。三人で出かけるのは初めてだ。マニとぷらりおのコンビはよく見かけるものの、コルヴスは周りの人から見れば、誰?と疑問に思うだろう。通り行く先で、この子はどうしたの?と実際に聞かれた。もし近所の人に聞かれた時は”遠い親戚のコルヴスくんです。事情があって家の預かりになっています。”と言うようにとマニのお母さんから言われていた。夢世界のことを話すわけにはいかないし、夢世界なんて誰が信じるだろう。一般民からすれば歴史の話でしかない。自分たちの身を守るための嘘として、親戚の子として預かっているということにしようという決まりになったのだ。
書物の塔は、マニの家から北の方向だ。そんなに距離はないが、やっぱり遠足にはおやつが欲しいところだ。ぷらりおは隣にある洋菓子店プレルーナをじっと見ている。
「おやつ、やっぱり欲しいよね?」
マニは苦笑いをする。しかし洋菓子店プレルーナは行列ができていて入れそうにない。
「残念だったな、ぷらり。おやつはお預けだな。」
コルヴスがにやりと笑ったときのことである。洋菓子店プレルーナの周りをよく見ると。屋台のような、屋外に小さなお店がありそこにいる男性が手を振っているではないか。男性は唐揚げの被り物をしている。なぜ、洋菓子店の隣で唐揚げの被り物をしているのか。なぜ、自分たちに向けて手を振っているのか、頭の整理がつかなかった。コルヴスが通報するか?と言おうとしたその時。
「君たちは!マニちゃんとぷらりお君だね?いつも洋菓子店プレルーナにご来店くださり、どうもありがとう!!君は・・風のうわさで聞く、コルヴス君だね?いやぁ、どうも初めまして!私は人呼んで唐揚げ先生!唐揚げを愛し、唐揚げのおいしい食べ方を研究している先生だよ!」
「嘘だ・・。絶対、唐揚げを作るとか言いつつ、裏ではドーナッツを作ってるだろ・・。」
明るい唐揚げ先生。ちょっと冷めているコルヴス。温度差が出来ており、マニはぽかんとしている。コルヴスの冷たい言葉に負けず、唐揚げ先生は言う。
「何を言っているんだい?コルヴス君。大人は嘘をつかないんだよ。とまあ、見ての通り洋菓子店プレルーナはちょっと混んでいてね、今から並ぶと・・一時間ちょっとかかるね。」
「い、一時間!?」
ぷらりおは目を丸くしてびっくりした声で言う。一時間も待っていられないのだ。寄り道のつもりだったし、おやつはあきらめようとマニは目を向ける。
「まあまあ待ちたまえ。お菓子をよく買ってくれるお礼があるんだよ。受け取っておくれ。」
唐揚げ先生はおやつの詰まった袋をマニに渡すと”みんなには内緒にするんだぞ”と言い残し、煙玉をぽんと投げ、煙の中に消えて行ってしまった。
「な、なんだったんだろう・・・。」
「あ、やっぱりドーナッツが入ってる。あいつはドーナッツ先生に改名すべきではないか?」
「うーん・・そういう問題じゃない気がするなぁ。」
中身は美味しいドーナッツが入っていたし、いい人だったので、通報はやめるとして、三人は気を取り直し、書物の塔へ向かう。書物の塔は高くそびえ立っており、道に迷うことはなかった。
書物の塔に着いたものの、何人かざわついているのが見える。扉を見ては去る人が多いため、3人も扉を見てみることにした。張り紙が貼ってある。
「・・書物の塔、只今点検中です。一般の方の立ち入りを禁じます。書物の番人ココアット」
「せ、整備中!?どうしよう・・。」
書物の塔の中に入れないのだ。図書館エリアなら入れると思っていただけに、ショックが隠せない。全部立ち入り禁止。番人とも話せない。3人は落胆した顔をしていた。その時上から声が聞こえる。おてんばな少女の声が聞こえるではないか。上を眺めてみると、空飛ぶ鍵に乗った青い帽子、青いコートを羽織っている少女がいる。
「おーい!! 詳しい話をするからちょっと、場所移動しようかー? あの辺なんかどう?」
少女は、西の方を指さし飛んでいった。
「ま、魔法使い?」
「とりあえず行ってみるとするか。」
3人は場所を変えてその少女の後を追う。追いついてベンチがある場所までたどり着くと、少女は着地し、にっこり笑ってみせる。空のような水色のポニーテール、紫色の瞳。ポシェットを身に着けている。
「ごめんごめん!いきなり呼びつけちゃって。しかも空の上から。」
「人を呼ぶときはもう少し慎重になってもらいたいものだな。」
「ねえねえ、君たち!書物の塔に行きたいんでしょ?」
「な、なんでそれを・・・」
「なんでって?書物の塔の前に立ってるんだもん。みんな行きたい人の集いに決まってるでしょ?わっはっは!!」
少女は豪快に笑って見せるが、これでは誰を呼んでも問題なかったのではないだろうか。
「おっと!名前を言うのを忘れていたわね。私の名前はアルアート!ココアットとは幼馴染よ。だからココって呼んでるの!」
「アルアート・・さん・・?もしかして!アステリズムのアルアートさんですか?」
「アステリズム?星群か?」
「そういう意味もあるけど、芸能事務所だよ~!!アステリズムは、アイドルや歌手がたくさん所属する芸能事務所なんだよ。」
マニは慌てて説明を加える。アステリズムは、星群という意味を持つ芸能事務所。人気アイドルや歌手、芸能人と名前を1度でも聞いたことがある人は必ずいる大手の事務所だ。
「ご名答。私はプリティアイドルのアルアートちゃんよ。でもこの通り・・」
アルアートは自分の足を見せる。足は思ったように動かせないようだ。アルアートは、アステリズム所属のアイドルもとい芸能人だ。
「ごめんごめん、こんなの見せちゃって。私はね、足が不自由だから魔法の鍵がないと自由に移動できないの。アステリズムとこのエリアを行き来できるのは、この子のおかげってわけ!」
魔法の鍵は、魔法道具と呼ばれる魔力のこもった発明品のひとつである。誰が考えたのか、誰が作り出したのかは不明で、いつの間にか現代に広まって今に至る。アルアートの持つ魔法の鍵は、実家が鍵屋ということもあり、先祖代々伝わっているものだそうだ。
「アルアートさんは、ココアットさんのことを知っているんですか?」
「知ってるもなにも、幼馴染って言ったじゃない~!バリバリ知ってるわよ。点検中っていうのも嘘ね。ココったら自分に自信がなくなると、いっつもそうするのよ。だから・・ちょっと待ってね。」
アルアートは、また道具を取り出す。星の光が出る。これは星屑の欠片ではなく”ほしつむぎ”と呼ばれる星屑の街で普及している携帯電話のようなものだ。
「もしもし?ココ?アルアートだけど。あのねー!!書物の塔を利用したいやじうまさんがわっさわさいるわよ。そろそろ鍵を開ける事ね?は?もう少し時間が掛かるし、点検も兼ねているのは本当だから待ってほしい?だーー!!ご用事ありの人がいっぱいいるんだから、早くしてよね!!」
・・アルアートの早口言葉が町中に響く。コルヴスがそっと、ココアットも苦労人だなと言ったが、アルアートの声にかき消されて誰も聞いていなかった。
「ダメねえ、時間が掛かるって。じゃあさ!ご挨拶も兼ねて、天の川橋で少し星でも見ない? アステリズムから渡ってきたとき、すごくきれいだったわよ!」
天の川橋は、この住宅街とアステリズムを結ぶ大きな橋だ。この橋がある空間は、常に星空が見えており、美しい景色を見ることが出来る橋でも有名だ。観光客にも人気の場所だ。書物の塔が点検中である以上、やる事もない。ココアットの幼馴染であるアルアートから話を聞くチャンスだと思い、3人は天の川橋でアルアートと一緒に星を眺めることにした。
小説,ぷらり、ね。 4170文字 

おともだちで家族


「あら、マニちゃん。そちらの男の子はどうしたのかしら?」
「こ、コルヴスく・・ん・・です・・」
夢世界から戻ってきたものの、まだ夜は明けていなかった。マニは布団を一人分押入れから出し、コルヴスを布団で寝かせたのだった。そして翌日。年頃の少女が見知らぬ少年と同じ部屋で寝ているのだ。母親が気付かないわけがない。どうごまかそう、どう言えばいいのか、手さぐりになりながら、マニとぷらりおは冷や汗をかいている。
「えっとー、星を見に行ったら、お友達になったの!お外は寒いからお泊りパーティを・・」
「ぷらりちゃん、嘘は、よくないわよ?」
「お、お母さん!あ、あのね!コルヴスくんはお父さんとお母さんが・・」
どんな言い訳をしても、マニのお母さんはにっこり笑って、表情を変えない。どうして黙っていたのかな?と言わんばかりに怒っているようにも感じる。
「あのね、マニちゃん。お母さんはね、マニちゃんとぷらりちゃんが魔法陣に入って夢世界に行っているのを知っていました。隠さないで本当のことを話してね。そしてお泊りパーティのこともね。」
もう嘘を言っても仕方がない。マニは本当のことを話した。星屑の街にある星屑の欠片が散り散りになってしまったこと。そのことは、ぷらりおの持つ魔力で気づいたこと。夢世界で星屑の欠片を見つけたこと。星屑の欠片を集めようと決めたこと。昨晩行った夢世界でコルヴスと出会ったこと。嘘は一つもつかなかった。そしてコルヴスが口を開いた。
「母上殿。ボクがコルヴスです。ごめんなさい。でも、マニとぷらりおは行き場のないボクを、助けてくれたんだ。悲しい気持ちでいっぱいだったボクを布団で寝かせてくれたんだ。だから、感謝して・・います。男と女が同じ部屋で寝るのは、よくないって知ってます。だから、ボクは、話が済んだら帰ります。」
「コルヴスくん・・」
まっすぐな表情でマニのお母さんに謝るコルヴスを悲しそうな目でマニとぷらりおは見つめる。お母さんは、そんな3人を見て腕を組み、考えをまとめて言う。
「そうね。2階のお父さんの部屋が空いているわ。コルヴス君はそこを使うといいわ。さすがにマニちゃんと同じ部屋はお母さんも心配になっちゃうから。」
「お、お母さん!?いいの?」
マニたちは目を丸くする。
「いいの。コルヴス君は悪い子に見えないし、そんな悲しい目をして嘘をつく子がどこにいますか。それにね、劇団アリエスの施設に入るとしてもコルヴス君は劇団アリエスの団員になりたいわけじゃないでしょう?」
「はい・・正直なところ、劇団はちょっと・・」
コルヴスは困った様子で言う。そして劇団アリエスについてお母さんは説明する。
「劇団アリエスの施設は、団員に加入することが条件で提供されている施設ね。食堂やみんなの個室があってすごく過ごしやすいけれど、それは表現活動を頑張ってほしいからであって、表現活動をする気がない場合は入れないの。家族がいない子で、表現活動をしない場合は、一般の児童施設に入所するのが普通の流れね。」
「そ、そうなんだ・・ぷらり、全然知らなかった。」
「お母さんくらいの年齢で知っていればいいことなのよ。でもね、子供を預かるっていうのはそういう事だから。2人には話しておこうかなって思ったのよ。コルヴス君を預かる手続きはきちんとやっておくから、3人仲良くするのよ。」
お母さんは、優しく微笑む。その表情を見て、マニとぷらりおは、ハイタッチをして、手を取ってくるくると踊る。
「やったぁ!コルヴスくんと一緒に暮らせるんだね!」
「うん!!よかった!」
急に2人が喜びコルヴスは、ぽかんとしている。コルヴスの手にマニの手が触れる。
「これからよろしくね、コルヴスくん。」
「あ、ああ、色々と手間をかけてすまない。よろしく・・。」
3人は2階の使われていないマニのお父さんの部屋に向かう。お父さんの部屋には、ベッドとピアノが静かに置かれている。3人は部屋の掃除を始める。家族写真を見たコルヴスはマニにお父さんのことを尋ねる。
「マニの父上殿はどんな人だ?」
「えっとね、舞台監督をしていて忙しいかな。年に1回家に顔を出せるか分からないくらい。」
「有名なのか?」
「うーん・・変わり者という意味では目立っていると思うけれど、有名人というよりは、目立たないとしても自分の世界を表現するために力を貸してくれる人のことをいっぱい大切にする人なんだ。その姿を見た人が、またお父さんの輪に入っていく感じかな。」
マニがはたきを動かしながら、お父さんのことを誇らしげに喋る。ぷらりおもうんうんと頷いている。お父さんの私物はあまり置かれていないのだが、念のためにお母さんにも確認を手伝ってもらう。そして、残っていた資料など、コルヴスが触ってはいけないものは部屋から出してもらえることになった。家具などはあまりないので、配置はそのまま。布団もお日様にあてて干して準備は万端。これでコルヴスの部屋を一日かけて完成させたのだった。
「みんな、よくがんばったわね!」
「母上殿が手伝ってくれたおかげ・・です。ありがとうございます。」
「もう、母上殿じゃなくてお母さんでいいのよ?」
「ボクなりの礼儀なのでそれは・・」
マニとぷらりおは、コルヴスの意外な一面を見て思わず笑ってしまう。コルヴスは照れ臭そうにしている。四人は食卓で晩御飯をとりながら会話を弾ませる。
「ところで。星屑の欠片については、どこまで知っているのかしら?」
「絵本で見た・・範囲の事と、ぷらりおが不思議な力で感じ取れることくらい・・しか・・分からない・・かな。」
「あら。困ったわね。それじゃあ、本がいっぱいある書物の塔でお勉強したらどうかしら?」
まるで星屑の欠片集めに参加したかのようにお母さんは提案する。書物の塔とは、星屑の街の住宅街にそびえ立つ大きな塔のことだ。周りには不思議な本が飛んでおり、中に入ると、たくさんの昔の本が保管されている本の宝庫だ。図書室として使えるところもあるので、勉強にはもってこいの場所だ。
「書物の塔・・いいかも!お母さんありがとう!明日行ってみるね。」
「しかし、母上殿。なぜ、ボクたちを止めたり怪しく思わないのだ?」
「それはね、お母さんは三人を信じているからよ。星屑の欠片のことは、お母さんもよくわからないけれど、ぷらりちゃんのような妖精がおかしいって思うなら、大変なことなのでしょう?応援しているからね。」
四人は分担して、食後の片づけをする。お皿を洗い、テーブルを拭き、椅子を元に戻す。そして、それぞれの部屋に向かう。
「おやすみなさい、コルヴスくん。」
「ああ、また明日な。マニ、ぷらりお。」
「コルヴス~!おやすみ~!」
布団に入り、書物の塔へ向かうことを考える。
「書物の塔・・かあ・・手掛かりが見つかるといいな。」
ぷらりおの寝息を聞きながらマニは今日のことを振り返る。お母さんに本当のことを話したこと。本当のことを話した結果、コルヴスも一緒に暮らせるようになったこと。みんなで部屋を片付けたこと、食事をしたこと。家族が1人増えて、嬉しい気持ちでいっぱいになったまま、マニは眠りについた。
小説,ぷらり、ね。 2956文字 

ふしぎな世界とふしぎなできごと。


星屑の街の住宅街。星屑の街の中では静かな部類になるのだが、人が多くとても賑やかだ。空まで届きそうな「書物の塔」、アステリズムに通じる「天の川橋」、おいしいお菓子で人気殺到「洋菓子店プレルーナ」と、話題を呼ぶ場所が集まっている。洋菓子店プレルーナの扉のベルの音とともに1人と1匹が姿を現す。お菓子の入った袋を抱えている。
「おいしそうな香り!いそごっ!いそごっ!マニ、おうちかえろっ!」
「もう~ぷらりお~急いで転んだら大変だからゆっくり歩こうね。」
マニと呼ばれる少女は、ふわふわとしたクリーム色の髪。着ているセーターも髪の色と似たクリーム色。ぷらりおと呼ばれる茶色い姿をしたアライグマの妖精は、星の飾りがついた青い帽子、リボンのついた上着を羽織っており、空を泳ぐようにマニの周りを動いている。優しいマニの声と無邪気なぷらりおの声は、にぎやかな街に優しく響く。ぷらりおがひょいっとクッキーを空に放り投げ、ぱくっと口へ運ぶ。よく言えば、器用。悪く言えば、往生際が悪い。それを見たマニが黙っているわけもなく大きな声を出す。
「ぷらりおー!! 喉にクッキーがつまったら大変でしょ、やめなさい~!」
「えへへ、クッキーがおいしいからぺろりとしちゃったー!」
「ぺろりじゃありませーん!」
元々、優しい性格だからか、可愛らしくも聞こえる怒鳴り声が響く。洋菓子店プレルーナの列に並ぶ人々が微笑みながら見守っている。クッキーなどが詰まった甘い香りのする袋を抱え、家に向かってマニとぷらりおは、走っていく。洋菓子店プレルーナの近くにある一軒家。それがマニとぷらりおが暮らす家だ。家に着くと、羊たちがふわふわと浮かんでいて、マニたちを迎える。
「おかえり~!マニ!ぷらりお!おいしそうな香りがするね。お菓子を買ったのかな?」
「そうだよ~!はい、あげるー!」
羊たちにお菓子をあげると、おいしいねえと幸せそうに食べ始めた。羊たちもぷらりおと同じ妖精だが、あまり外に出るのを好まないため、マニやぷらりおのお土産話を楽しんでいる。
「も~!お母さん、ぷらりおったら、クッキーをひょい!って空に投げて食べたんだよ?」
クッキーを片手にマニは言う。
「あらあら、ぷらりちゃんはわんぱくねえ。遊び心もたまには大事だと思うけどなあ。」
ココアを飲みながらマニのお母さんは微笑む。マニと同じクリーム色の髪を一つのお団子結びにしている。マニのお父さんは、舞台監督をしており、忙しい日々を送っている。そのため会えるのは、年に1度あるかないかだ。ぷらりおと羊たちがはしゃいでいる声で隠すかのように、マニとお母さんの会話は続く。
「お父さん、たまには顔を出してくれればいいのにね。」
「そうねえ。お父さん、作品を通して自分を表現する!マニちゃんにもこの思い、届くはず!なんて言っていたけれど・・難しい話や物語はお母さんも分からないわ。表現した自分じゃなくて本当の自分を見せる意味でも家に帰ってきてくれればいいのにね。」
「うん・・お父さんは創作スイッチが入ると、いっぱい物語を書き始めるけれど、それ以外のことって不器用だよね・・。」
その日の夜。いつものように、マニとぷらりおは、ぐっすりと眠っていた。いつもならば、ぐっすり眠ったら日が昇り、朝が来るはず。時計の針の音が静かに響く夜。ぷらりおは、目を開ける。そして、何かに惹かれるように歩いていく。
「ふしぎな、力・・感じる・・。」
ぷらりおの温もりがなくなり布団が少し冷たくなった。マニがそのことに気付くまでに時間はかからなかった。
「うーん・・ぷらりお?どうしたの・・?」
マニは、目をこすりながら、着替え、ぷらりおに続く。ぷらりおが立っていたのは、とある部屋の扉の前。この扉の先には、不思議な世界「夢世界」に続く魔法陣がある。夢世界は、人間の感情、想いで構成される不思議な世界。想いによって、姿かたちが違う不思議な世界。いくつあるのか明確な記録はない。マニの家が妖精を保護する不思議な家になった理由は、マニが生まれるずっと前に、この部屋に夢世界へ続く魔法陣が現れたからだ。マニが扉を開け、光り輝く魔法陣の前に立つ。
ぷらりおが魔法陣の前に立ち、しましまのしっぽをとんとんと揺らす。
「ねえ、マニ!新しい夢世界が見つかったよ!」
「・・・うん! 早く街を元に戻したいな。」
真剣な表情で、マニもぷらりおの隣に立つ。
「スランプ、挫折。表現者の暗い気持ち、悩み。そんな想いに耐えられなくなったかのように、星屑の街にある星屑の欠片は、散り散りになってしまった。結界も消えて・・何事もないように見えるけれど、やっぱり前よりも、悩んでいる人が増えた気がする。街を早く元に戻したいな。」
そして、手には紫色に輝く、星型の宝石のようなものが光っている。「星屑の欠片」だ。
「ぷらりおの持つ、不思議な魔力で、”紫色”の星屑の欠片を見つけたけれど、1個だけじゃ心の悩みは、浄化できなさそうだね・・。」
紫色の光が、寂しそうに光る。
「星屑の欠片の絵本だと、星屑の欠片って虹の色の数とおんなじだっけ?早く欠片のお友達を見つけないとね!マニ、準備はできた?」
「もちろん!ぷらりおも大丈夫?」
「ぷらりはだいじょうぶだよ!」
「行こう!ぷらりお!」
「OK!マニ!」
「せーのっ!!!」
マニとぷらりおは、魔法陣に飛び込む。魔法陣は、穏やかな光で1人と1匹を包み、夢世界へいざなう。意識が消えるような不思議な感覚。眠っているような優しい感覚。

目を開けると、不思議な空間が目に映っている。あたりには、くまのぬいぐるみや、うさぎのぬいぐるみが散らかっている。水色のタンスやクローゼットといった家具が置いてある。マニと同じくらいの年の子、あるいはそれよりも幼い子供が使うような部屋だろうか。床には、ふかふかのカーペットが敷かれており、生活感があるようにも思える。
「なんだか誰かが住んでいるような夢世界だね。」
マニがあちこちを眺めていると、くまのぬいぐるみたちが動き出した!
夢世界は、表現者の心・想いから作られる世界。想いが何かに憑依し、襲ってくることがある。もし、痛みを受けてしまった場合、体の怪我にはならないが、心の負担が大きいため、意識を失ってしまう。マニは、ぷらりおと紫色の星屑の欠片を夢世界で見つけた後、想いを受け過ぎて意識を失ってしまったことがある。ぷらりおの不思議な魔法の力で部屋に戻れたのだが、その日はずっと眠ってしまった。それ以来、マニもぷらりおも夢世界の探索は、用心している。マニとぷらりおは、息をあわせて魔法の準備をする。
「コスミックマジック!!」
大きな声で言うと、星の光が瞬き、ぬいぐるみたちを攻撃する。ぬいぐるみたちは、くたりと倒れる。動きは止まった。
「うまくいったね!マニ!」
「うん!・・広い部屋だね。あ、奥に扉がある。行ってみよう!」
休む暇もなく、マニとぷらりおは、奥へ奥へと歩いていく。扉が見つかれば、開けて部屋の隅々を眺める。ぬいぐるみや絵本ばかり並んだ本棚、ふかふかのベッド。床に本が落ちていたり、ぬいぐるみが倒れていたり、誰もいないようには思えなかった。想いが憑依したぬいぐるみが読んでいるのだろうか?その時だった。
「ドー・・・レー・・・ミー・・・」
ピアノの鍵盤の音が階段の奥から聞こえた。
「ゆ、夢世界の七不思議!!」
「夢世界は、七つ以上に不思議なことはあるでしょう?・・行ってみよう。」
「マニ、怖くないの?」
「夢世界は、こういうこと、いっぱいあるでしょう?ぷらりおは怖いの?」
「こ、こわくないもん! い、いこう!」
ぷらりおは、マニにつかまりぶるぶる震えている。マニはゆっくりと階段を上る。そこには、ピアノ。そして。
「・・あ、あの・・あなたは・・・?」
藍色に光り輝く星型の欠片を持った少年が静かに立っている。ねずみ色の髪、眠そうな赤色の瞳。耳には青く星のマークがついたヘッドホン。洋服はダボダボな、髪の色と同じようなねずみ色の服を着ている。例えるならば、アルビノのカラスのような少年だ。少年の肩には、少年と似た色味の白いカラスが飛んでいる。
「だれ・・だ・・?」
少年は言葉を発したが、儚く消えるような声だった。
「ひぃ!しゃ、しゃべったああ!!おばけええ!!!」
「久々に、声を、出した気がする。」
ぷらりおのびっくりした声を聞いて少年は目を覚ますかのように笑う。その様子を見て、マニは恐る恐る尋ねる。
「あの、あなたも夢世界で想いを浄化しているの?」
「想いを浄化?いったい何のことだ?ボクはこの欠片から聴こえる音をずっと聴いていた。」
藍色に光る星屑の欠片は、きれいな色を放っているが、どこか悲しげにも見える。ぷらりおは首をかしげる。
「欠片から音ってなんだろー?んー・・ぷらりには聞こえないよ。」
「私も、分からない。きっとあの子にしか聞こえない音。」
マニも紫色の星屑の欠片に耳を傾けてみるが、音は聞こえない。少年は、欠片と話しているかのように、語り掛ける。
「そうか、悲しい音を取り込んで辛かったんだな。」
そして目線をマニたちに向ける。
「・・こいつは、悲しい想いをいっぱい聞いてきたらしい。手に取るだけでわかる。」
「悲しい想いが街にあふれているように感じたのは・・」
「悲しい想いを浄化する力のある欠片が、ここに迷い込んでしまっていたから・・」
藍色の星屑の欠片は、悲しい想いを浄化する役割があった星屑の欠片らしい。少年はまた声を出す。
「ここは・・どこだ・・? ずっとピアノの前にいた気がする。」
「ここはね、夢世界だよ。想いや感情から構成される不思議な世界。私たちは、想いを浄化したり、夢世界に飛んで行ってしまった星屑の欠片を集めるために来ているの。」
「ねえねえ、そういうえば、キミ!お父さんとお母さんは?」
ぷらりおの問いかけた言葉に対してマニは、はっとなった。そういえば。どうしてこの少年は夢世界にいるのだろう?白いカラスが妖精で、その力で夢世界に来たのだろうか?気になる事があふれてくる。けれど、考えを巡らせる前に、マニは少年の目から涙があふれていることに気付いた。
「わからない・・。いないの、かもしれない。でもこの欠片から聞こえる音は、ただ、悲しい音だった。こいつもいてくれたが、さみしくて、つらかった。」
少年は藍色の光に包まれながら、涙を流していた。悲しい音しか聞こえない空間にいて、どれだけ悲しい思いをしたのだろう。そのことを考えると、マニも泣きそうになったが、ぐっとこらえて言う。
「泣かないで・・・!! 3人で帰ろう?」
「さ、さんにん!?ってマニ!この子連れて帰るの!?」
ぷらりおは、思いもよらぬ提案に大きな声を上げる。が、マニはそれにお構いなく優しく声をかける。そして少年にハンカチを貸してあげる。
「泣いてたら助けてあげなくちゃ。私はマニ、この子はアライグマの妖精、ぷらりお。あなたの名前を教えてもらえるかな?」
ハンカチで涙をふき、落ち着きを取り戻した少年は礼を述べ、続けて言う。
「名前・・・そうだ。言っていなかったな。ボクに懐いている鳥は見ての通り、白いカラスだ。カラス座からコルヴスと名乗る事にしよう。」
「名乗る事に?んー・・まあいいや!夢世界って長い時間いると体にも心にも負担がかかるんだよ。帰るならおうちに帰ろう、マニ、コルヴス!」
ぷらりおは、マニの提案に最初はびっくりはしたものの、マニの言ったことを否定するということはしないので、コルヴスを受け入れた。そして、マニとコルヴスは、2つの星屑の欠片を手に広げる。
「紫色の欠片、藍色の欠片・・これで2色だね。」
「なんだか暗い色の欠片だな。これを集めれば星屑の街が元に戻る、というわけか。」
「はいはい、立ち話はおうちに戻ってからしようね? 今からみんなでマニの家に帰るよ! せーの!! ぷらりまじっく!!」
ぷらりおがくるくる回り、2人の周りを光で包み込むと、マニの家にあるような魔法陣が生まれる。そして、目をつむる。光があたたかく2人を包み、徐々に意識がなくなる。この時、コルヴスは星屑の欠片の光が眩しいと感じたが、マニは目をつむっていて、気付いていなかった。
小説,ぷらり、ね。 5041文字 

プロローグ~星屑の街へようこそ~


きらきら輝くあなたへ

星屑の街は「表現者」と呼ばれる人たちが集まる街です。例えば、芸術家。例えば、アイドル。例えば、歌手。例えば、作家。例え・・いっぱいあって書ききれません。きらきら光る夜空の星みたいな表現活動をする人々のことを表現者と呼びます。表現者が星のように集う街だからこの街は「星屑の街」と呼ばれています。もちろん、表現に携わらない一般の人もいます。一般の人のことは、そのまま「一般民」と呼びます。表現者を応援するファンのことを「応援者」と呼びます。私はごく普通の一般民です。けれど、ちょっと違うのは、私の家は、妖精を保護している不思議な家であること。家に帰れば、羊さんがおかえりと迎えて、お母さんは羊さんを見ても動じない。私もまた、そんな景色が普通になっています。

星屑の街は、とてもきらきらしていて私は大好きです。魔法の本が空飛ぶ書物の宝庫「書物の塔」が住宅街にそびえ立ち、孤児院も兼ねている劇団「劇団アリエス」からは、稽古の声から子供たちの元気な声が聞こえます。その声を聞いていると、ひまわり畑を思い出します。住宅街に架かる「天の川橋」は、満点の夜空が常に広がっていて、幻想的で心を落ち着かせます。天の川橋を渡ると、アイドルや歌手といった眩しい星々が輝く芸能都市「アステリズム」があります。アステリズムには「夢見の城」と呼ばれる大きなライブ会場があります。出演を夢見るアイドルや歌手が多いことから夢見とついたそうです。そして、街の特徴として・・星屑の街は「星屑の欠片」と呼ばれる星型の欠片から生まれる結界で守られています。欠片が作り出す見えない結界のおかげで、私たちは平和に暮らせています。争い事が起こらない、意地の悪い人がいない、もし悪事を働かせようとする人が出たら、痛いおしおきが待っている・・とか諸説は色々とあるけれど、本当のところは、あまり判明していないみたい。きらきらしているけれど、不思議なものもあって、面白いでしょう? 今度、遊びに来てくださいね。 またお話できるといいな。それではまたね。

きらきらの夢を抱く私より

星屑の街 創作信念

創ることは楽しい。嬉しい。辛い。悔しい。
それでも私たちは創ることが好きだから
ひとつの星として輝き続けたいんだ。
小説,ぷらり、ね。 963文字