作品 噂話と噂の生徒 2025年6月15日(日) —キーンコーンカーンコーン・・・「まずい!!!」さっき、ギャル相手に口論なんかしちゃうから本当に遅刻しちゃうよー!!私は、稲荷ほのか(いなり)。私立天ノ川学園・文学部1年生。ショートヘアで鈴が垂れているカチューシャがトレードマーク。和服が好きだから、制服も着物っぽいアレンジにしているよ! 大河からはそれハンテンじゃね?って突っ込まれているけれどね。・・・っと、遅刻を回避するためには・・・。私は、教室の窓の近くにある木に登った。私が手を合わせると、くるみちゃんが渋い顔をしながら窓を開けてくれた。そこにジャンプ!!「ふう・・間に合った!!ありがと、くるみちゃん!」「ぎ、ギリギリ間に合って、良かったですわ。いなほちゃん。」ホッとしたような顔で私を見ているのは、古坂くるみ(こさか)ちゃん。私の大親友。舞踊の家系で踊りや着物に詳しくて、私の先生でもあるんだ!スイッチが入るとおしゃべりになっちゃうんだけどね。なにかに夢中になれるくるみちゃんは素敵。「ほのか!!」冷や汗をかいてこちらを見つめるのは七木大河(ななきたいが)。私の幼馴染。最近背が伸びて、すっかり大人になったような。それでもお面をつけて授業受けるのはどうかと思・・・「うしろ!!!」もー、またまたおじいちゃんから教わったギャグを・・・と思ったけど、ヒヤッとする。後ろを振り向くと・・。「おはよう、稲荷さん。今日も元気いっぱいで何よりだわ。」満面の笑みで島香海音(しまかうみ)先生が私の後ろに立っていた。「う、うみせんせー・・おはよ、ござい、ま、す。」「あのね! 入学してからずっと同じことを言っているわよね? 木に登って登校しないで!と。 何度も同じことを言わせないで。」「は、はい、すみません。」私、島香先生、ちょっと、いや、けっこう、苦手、かも。美人だとは思うけれど、きれいな花にはトゲがあるってこういうことなんだな・・っていつも思う。私と島香先生のやり取りを見て、くすくす笑う子もいれば、島香先生が怖くて、ビクビクしている子もいた。さすがにやりすぎた。これだったら普通に遅刻したほうが良かったな。「・・・では、気持ちを切り替えて授業を始めます。」さっきとは違って穏やかな声で島香先生は言う。私、やっぱり嫌われているのかな。木登りばっかりしているから?そんなもやもやで、噂話のことはすっかり飛んでいってしまった。—お昼休み。私、くるみちゃん、大河は、屋上に繋がる階段でお弁当を広げて食べていた。「ったく、もう少し早く起きろっつの! 俺、ほのかの家に寄ったんだけど、起きてないのよって、ほのかのお母さん困った顔してたぞ。」「あはは、それはどうもどうも・・。」大河と私はお隣さん同士でもあるんだ。一緒に登校することも多いんだけど、今日は私が寝坊したから、大河は先に登校していた、というわけ。「もう、いなほちゃん。怪我をされないか、毎回心配してしまいますわ。いなほちゃんの運動能力はすごいのですが、いのちほど大切なものはありませんからね。」「くるみちゃん、ごめんなさい。」普段の会話ができて、私はすごく安心した。そして、自分のこともみんなのことももっと大切にしなくちゃと思った。「あのさ・・。通学途中でまた聞いたんだ。あの噂話。」「ああ、天ノ川学園に閉じ込められている星を解放すれば不思議なことが起こる。ってやつか?」「夜に学園をウロウロする生徒さんもいて、困っていると聞きますわよね。」「ちょっと調べてみない?・・やっぱり気になる。」「噂だろ、作り話かもしれないぞ? 夜に学校の出入りなんかしたら、大変なことになるだろ?」「わたくしは、面白そう!と思いますけれど、ばあやが止めるでしょうね。」・・そうだよね。みんな家族がいるんだもんね。心配かけたくないよね。しょんぼりとしていたとき、大河が、うーん・・と考えながら口を開く。「でも、俺、気になることがあって。天文部の瀬名湊(せなみなと)っているだろ? あいつ、夜に学校をウロウロしているらしいんだ。」「え!? 湊くん!? 湊くん!?」私は目を輝かせていた。だって、瀬名湊くんって天文部所属で、カッコよくて、穏やかで、すっごく素敵で、見ていて・・・。「あ、ほのか。知ってるなら話が早い。お前、夜の学校に行って、湊が何やってきてるか見に行ってくれないか? 俺心配なんだよ。」「心配?どうして大河が湊くんを心配するの? というかなんで湊くんを呼び捨て?」「ほのか、言ってなかったっけ? 俺と湊は小学生の頃やってた習い事が一緒だったから顔見知りというか、友達、だからさ・・。」「えーーーーーーーっ!?」私は思わず大きな声で叫ぶ。それを横で見ていたくるみちゃんはクスクスと笑っている。「こんなに大きな声を出せるなら、朝のことは吹っ切れているようですわね。良かった。」「で、ほのか。調査してみるのか?」「うん。調べてみる。夜の学校に湊くんがいたらお父さんもお母さんも心配しちゃうよね。」「鈴は外したほうがいいんじゃないのか?」「・・・テープで止めるもん!」湊くんは天文部。文学部と天文部は校舎が別々になっていて、渡り廊下でつながっている。合同授業もあんまりないし、最近会えないんだよなあ。大河から湊くんの特徴や性格を教えてもらった。私が知っている湊くんって、外からのイメージでしかないんだと実感した。私、湊くんのこと、知らないんだ。大河よりも知らないんだ。それも含めて、調査、か。—下校の時間。私は、たまたま湊くんを見かけた。女の子に囲まれていて、歩きづらそうにしている湊くん。けれど、歩きづらさは顔に出しておらず、穏やかな顔色を維持している。青空のような青い瞳に、クリーム色の髪。遠くから見れば、男の子なのか女の子か分からなくなるような中性的な容姿。文武両道で、弓道部に所属している。「湊さん、今日もお疲れ様です!!」「瀬名さん、今日もかっこよかったです!!」湊くんを取り巻く女の子たちが、必死に声をかけている。湊くんは女の子たちの方を見ず、上の空になっている様子でゆっくり歩いている。湊くんはか細い声でつぶやいた。「・・・えっと。なにか言った?」「い、いえ! お疲れのところすみません。また明日!」取り巻く女の子たちは道を開けて去っていく。湊くんは、さっきと変わらずゆっくり歩いていった。「・・湊くん。登校から下校までずっと誰かと一緒にいるもんな。さっきの湊くん、疲れてるって感じがしたな。」私はため息混じりでつぶやいた。疲れている湊くんに対し、周りの女の子たちは、クール、カッコいい、ミステリアス、守ってあげたい、なんて言うんだ。私もカッコよくて可愛い、カッコ可愛い!なんて言ってはしゃいでいたけれど、湊くんにとっては、迷惑だよね。疲れている湊くんを見て、はしゃぐなんてできないよ。弓道をしているときの湊くんはカッコいいし、穏やかに本を読んでいる姿は吸い込まれそうになる。湊くんは一人のほうが好きなのかな・・?校門の裏に隠れて、ずっと湊くんを見ていた私。頭がボーッとして、通りすがる湊くんに気付かなかった。鈴がひとつ、湊くんにぶつかる。チリン!「わ!ごめんなさい!」「ううん。鈴のついたカチューシャって珍しいね。」「うん! おばあちゃんが作ってくれたの・・って湊くん!?」話しかけやすい雰囲気につられ、気づいたら自分のことを話してしまった。その様子を見て、湊くんは笑顔を浮かべる。「君、面白いね?」「おも、おも、おもしろ・・・?」「名前は?」「えっと、稲荷ほのか! 文学部1年!」「稲荷さんか。大河から聞いた通りの人だ。」私は大河!?と叫びそうになったけれど、グッとこらえた。「なんで喋るのをこらえようとするの? 喋りたければ喋りたければいいのに。」「だって、湊くん。さっき、色んな子に声かけられて疲れてたじゃん?」「・・そうか、分かる人には分かるか。」湊くんは夕日に染まる空を見上げる。「僕はね、気にかけてもらえるのはありがたいよ。人といるのも嫌いじゃない。けど、僕を独占しようとしたり、束縛されるのは嫌いだ。あの空のように、自由になりたいと思う時があるんだ。水槽で泳ぐよりも川や海で泳ぎたい魚のように。」あ、ごめん。と言って湊くんは私に顔を向ける。「ううん、気にしないで! ぶつかった私が悪いんだし。またお話しようね。湊くん。」湊くんは頷き、それじゃまたと言って歩き出した。「—雲のように、おだやかに過ごせたらどんなにいいだろう。」 星空の解放日 3670文字 « No.4 / No.6 »
—キーンコーンカーンコーン・・・
「まずい!!!」
さっき、ギャル相手に口論なんかしちゃうから本当に遅刻しちゃうよー!!
私は、稲荷ほのか(いなり)。私立天ノ川学園・文学部1年生。ショートヘアで鈴が垂れているカチューシャがトレードマーク。和服が好きだから、制服も着物っぽいアレンジにしているよ! 大河からはそれハンテンじゃね?って突っ込まれているけれどね。
・・・っと、遅刻を回避するためには・・・。
私は、教室の窓の近くにある木に登った。私が手を合わせると、くるみちゃんが渋い顔をしながら窓を開けてくれた。そこにジャンプ!!
「ふう・・間に合った!!ありがと、くるみちゃん!」
「ぎ、ギリギリ間に合って、良かったですわ。いなほちゃん。」
ホッとしたような顔で私を見ているのは、古坂くるみ(こさか)ちゃん。私の大親友。舞踊の家系で踊りや着物に詳しくて、私の先生でもあるんだ!スイッチが入るとおしゃべりになっちゃうんだけどね。なにかに夢中になれるくるみちゃんは素敵。
「ほのか!!」
冷や汗をかいてこちらを見つめるのは七木大河(ななきたいが)。私の幼馴染。最近背が伸びて、すっかり大人になったような。それでもお面をつけて授業受けるのはどうかと思・・・
「うしろ!!!」
もー、またまたおじいちゃんから教わったギャグを・・・と思ったけど、ヒヤッとする。後ろを振り向くと・・。
「おはよう、稲荷さん。今日も元気いっぱいで何よりだわ。」
満面の笑みで島香海音(しまかうみ)先生が私の後ろに立っていた。
「う、うみせんせー・・おはよ、ござい、ま、す。」
「あのね! 入学してからずっと同じことを言っているわよね? 木に登って登校しないで!と。 何度も同じことを言わせないで。」
「は、はい、すみません。」
私、島香先生、ちょっと、いや、けっこう、苦手、かも。美人だとは思うけれど、きれいな花にはトゲがあるってこういうことなんだな・・っていつも思う。
私と島香先生のやり取りを見て、くすくす笑う子もいれば、島香先生が怖くて、ビクビクしている子もいた。さすがにやりすぎた。これだったら普通に遅刻したほうが良かったな。
「・・・では、気持ちを切り替えて授業を始めます。」
さっきとは違って穏やかな声で島香先生は言う。私、やっぱり嫌われているのかな。木登りばっかりしているから?そんなもやもやで、噂話のことはすっかり飛んでいってしまった。
—お昼休み。
私、くるみちゃん、大河は、屋上に繋がる階段でお弁当を広げて食べていた。
「ったく、もう少し早く起きろっつの! 俺、ほのかの家に寄ったんだけど、起きてないのよって、ほのかのお母さん困った顔してたぞ。」
「あはは、それはどうもどうも・・。」
大河と私はお隣さん同士でもあるんだ。一緒に登校することも多いんだけど、今日は私が寝坊したから、大河は先に登校していた、というわけ。
「もう、いなほちゃん。怪我をされないか、毎回心配してしまいますわ。いなほちゃんの運動能力はすごいのですが、いのちほど大切なものはありませんからね。」
「くるみちゃん、ごめんなさい。」
普段の会話ができて、私はすごく安心した。そして、自分のこともみんなのことももっと大切にしなくちゃと思った。
「あのさ・・。通学途中でまた聞いたんだ。あの噂話。」
「ああ、天ノ川学園に閉じ込められている星を解放すれば不思議なことが起こる。ってやつか?」
「夜に学園をウロウロする生徒さんもいて、困っていると聞きますわよね。」
「ちょっと調べてみない?・・やっぱり気になる。」
「噂だろ、作り話かもしれないぞ? 夜に学校の出入りなんかしたら、大変なことになるだろ?」
「わたくしは、面白そう!と思いますけれど、ばあやが止めるでしょうね。」
・・そうだよね。みんな家族がいるんだもんね。心配かけたくないよね。
しょんぼりとしていたとき、大河が、うーん・・と考えながら口を開く。
「でも、俺、気になることがあって。天文部の瀬名湊(せなみなと)っているだろ? あいつ、夜に学校をウロウロしているらしいんだ。」
「え!? 湊くん!? 湊くん!?」
私は目を輝かせていた。だって、瀬名湊くんって天文部所属で、カッコよくて、穏やかで、すっごく素敵で、見ていて・・・。
「あ、ほのか。知ってるなら話が早い。お前、夜の学校に行って、湊が何やってきてるか見に行ってくれないか? 俺心配なんだよ。」
「心配?どうして大河が湊くんを心配するの? というかなんで湊くんを呼び捨て?」
「ほのか、言ってなかったっけ? 俺と湊は小学生の頃やってた習い事が一緒だったから顔見知りというか、友達、だからさ・・。」
「えーーーーーーーっ!?」
私は思わず大きな声で叫ぶ。それを横で見ていたくるみちゃんはクスクスと笑っている。
「こんなに大きな声を出せるなら、朝のことは吹っ切れているようですわね。良かった。」
「で、ほのか。調査してみるのか?」
「うん。調べてみる。夜の学校に湊くんがいたらお父さんもお母さんも心配しちゃうよね。」
「鈴は外したほうがいいんじゃないのか?」
「・・・テープで止めるもん!」
湊くんは天文部。文学部と天文部は校舎が別々になっていて、渡り廊下でつながっている。合同授業もあんまりないし、最近会えないんだよなあ。
大河から湊くんの特徴や性格を教えてもらった。
私が知っている湊くんって、外からのイメージでしかないんだと実感した。
私、湊くんのこと、知らないんだ。大河よりも知らないんだ。
それも含めて、調査、か。
—下校の時間。
私は、たまたま湊くんを見かけた。
女の子に囲まれていて、歩きづらそうにしている湊くん。けれど、歩きづらさは顔に出しておらず、穏やかな顔色を維持している。
青空のような青い瞳に、クリーム色の髪。
遠くから見れば、男の子なのか女の子か分からなくなるような中性的な容姿。文武両道で、弓道部に所属している。
「湊さん、今日もお疲れ様です!!」
「瀬名さん、今日もかっこよかったです!!」
湊くんを取り巻く女の子たちが、必死に声をかけている。
湊くんは女の子たちの方を見ず、上の空になっている様子でゆっくり歩いている。湊くんはか細い声でつぶやいた。
「・・・えっと。なにか言った?」
「い、いえ! お疲れのところすみません。また明日!」
取り巻く女の子たちは道を開けて去っていく。
湊くんは、さっきと変わらずゆっくり歩いていった。
「・・湊くん。登校から下校までずっと誰かと一緒にいるもんな。さっきの湊くん、疲れてるって感じがしたな。」
私はため息混じりでつぶやいた。疲れている湊くんに対し、周りの女の子たちは、クール、カッコいい、ミステリアス、守ってあげたい、なんて言うんだ。私もカッコよくて可愛い、カッコ可愛い!なんて言ってはしゃいでいたけれど、湊くんにとっては、迷惑だよね。疲れている湊くんを見て、はしゃぐなんてできないよ。
弓道をしているときの湊くんはカッコいいし、穏やかに本を読んでいる姿は吸い込まれそうになる。湊くんは一人のほうが好きなのかな・・?
校門の裏に隠れて、ずっと湊くんを見ていた私。
頭がボーッとして、通りすがる湊くんに気付かなかった。
鈴がひとつ、湊くんにぶつかる。
チリン!
「わ!ごめんなさい!」
「ううん。鈴のついたカチューシャって珍しいね。」
「うん! おばあちゃんが作ってくれたの・・って湊くん!?」
話しかけやすい雰囲気につられ、気づいたら自分のことを話してしまった。
その様子を見て、湊くんは笑顔を浮かべる。
「君、面白いね?」
「おも、おも、おもしろ・・・?」
「名前は?」
「えっと、稲荷ほのか! 文学部1年!」
「稲荷さんか。大河から聞いた通りの人だ。」
私は大河!?と叫びそうになったけれど、グッとこらえた。
「なんで喋るのをこらえようとするの? 喋りたければ喋りたければいいのに。」
「だって、湊くん。さっき、色んな子に声かけられて疲れてたじゃん?」
「・・そうか、分かる人には分かるか。」
湊くんは夕日に染まる空を見上げる。
「僕はね、気にかけてもらえるのはありがたいよ。人といるのも嫌いじゃない。けど、僕を独占しようとしたり、束縛されるのは嫌いだ。あの空のように、自由になりたいと思う時があるんだ。水槽で泳ぐよりも川や海で泳ぎたい魚のように。」
あ、ごめん。と言って湊くんは私に顔を向ける。
「ううん、気にしないで! ぶつかった私が悪いんだし。またお話しようね。湊くん。」
湊くんは頷き、それじゃまたと言って歩き出した。
「—雲のように、おだやかに過ごせたらどんなにいいだろう。」