stardustbakery星屑べーかりー

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物語

作品

2025年6月 この範囲を古い順で読む この範囲をファイルに出力する

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夜に行くなら


どこかさみしげにゆっくり歩く湊くん。

それで・・いいのかな? 私は思わず走り出した。

「あ、あの! 湊くん!! やっぱり途中まで一緒に帰ろ?」

「付いてきたいのならご自由に。」

「ありがと! ご自由にするね。 湊くんはいっつも帰りあんな感じ?」

「あんな・・ああ、気づいたら群れに捕まっているんだ。」

「群れ・・。な、なんか、お魚みたいだね・・・。」

会話にならない会話を繰り返しながら、私と湊くんは歩いていく。湊くんのゆっくりとしたペースに合わせながら歩いていく。カラスの鳴き声がなんだか新鮮に聞こえてくる。湊くんは、やっぱり上の空。夜の学校を彷徨っていると聞いたならやっぱり本人に聞くしかないじゃん。私は話しかけてみる。

「湊くんってさ、夜の学校好き?」

「はあ?」

「あ、えっと・・静かでいいよねー・・・。」

やっぱりそうか。本人に聞いてもかんたんに答えてくれるわけ、ないか。もしかしたら、何かに操られていて気づいていない?いやいや、そんなファンタジーなこと、起こるわけないよね。

「稲荷さんはどうして僕なんかを相手にしてくれるんだい?大河のほうが面白いだろ?」

「・・なんか、気になるんだ。今まで文武両道の湊くんがすごい!って思っていたけれど、大河の話を聞いたり、今こうして歩いてお話してみたりして、普段と違う湊くんを見て。さみしそう、だなって。」

「さみしい・・? ぼくが? ふふっ、やっぱり稲荷さんは面白いね。」

私、なんか偉そうなこと言っちゃった!?あわてて湊くんに謝ると、そんなこと気にしなくていいよって笑われちゃった。ゆっくりだけど前に進んでいるのは確かで、あっという間に分かれ道になっちゃった。

「稲荷さん、僕の家はこっちだから、またね。」

「うん、またね。湊くん。」

・・・あ、あれ・・?普通に帰ってきちゃったけど良いんだよね。夜まで学校に残るわけにもいかないし。とりあえずお母さんに話してみようかな。私は家まで猛ダッシュする。

家につくとそこには生ゴミを還すために土が埋められた収納ボックスの蓋を閉めようと手を伸ばしていたおばあちゃんがいた。

「おかえり、ほのか。遅かったじゃないか。」

「お、おばあちゃん・・ご、ごめんなさい。」

「いや無事ならいいんだ。ほのかは普段もう少し帰りが早いからね。」

ああそうだ、うちにはおばあちゃんがいるんだったー!!おばあちゃん心配性だから、私がちょっとでも帰りが遅くなるとこの通り。夜の学校なんて、許してもらえるわけないよなあ。でも調査する!って宣言しちゃったし。

けど、私にはお母さんもいる。

夕食が終わった後、お母さんを捕まえて聞いてみる。

「お母さん、夜の学校に行ける方法ってないかな?」

「どうしたの!?ほのか。学校の七不思議でも聞いた!?」

「七不思議じゃないけど気になる噂は聞いた。」

お母さんは、はあとため息をついた。やっぱりそうだよね。けれど電話の前に貼ってあるお知らせの用紙を見ながらぼそりとつぶやく。

「・・・明日、保護者の面談会があるからそのときにでも見てきたら?」

私はやったー!お母さん大好き!とお母さんをぎゅっと抱きしめる。お母さんは苦笑いしているようだったけれど、私は嬉しくてあまり気にしていなかった。

—翌日。

今日は大河といっしょに学校へ向かう。早起きってやっぱり気持ちがいい。

「なるほど。湊と昨日帰ったのか・・。で湊と家の近くで別れたから学校の近くに湊は向かっていないと。」

なぜか大河が複雑そうな顔をして悩ましげに私を見ている。

「そうなの。湊くんを取り巻く女の子たちが多くて疲れていたみたいだけどね。」

「しかし、このタイミングで面談会があるのはいいな。俺も夜の学校なんてじっちゃんが許してくれねえよ。ほのかの家にはおばあさんもいるし、そこどうしようかなって思ってた。」

昨日のことを話しながら学校に向かって歩いていく。大河はおじいちゃんっ子なんだよね。

「面談会ってことはよ、どこかの教室に保護者とか先生とか集まるだろ?その間に調査したら面白そうだよな。」

「なんで大河が乗り気なのよ。」

「だって、面白そうだから。」

大河がニカッと笑ってみせると、私は、はあ?って大河に目線をやる。だって、最初大河が調べろって頼んできたじゃない。なんで今さら大河が・・って。夜の学校に入れる手段が見つかったからか。みんな夜の学校に興味はあるけれど、入れる口実がないから困っていたんだ。

「じゃ、今日の夜。面談会で湊くんがいないか探してみるってことで。」

「そうだな。古坂は誘う?」

「一応、声かけてみるよ。大きなお屋敷に住んでるし、急なスケジュールだから難しいかもしれないけど・・。」

とひそひそと話していると後ろから人の気配がする。

え・・?と思って振り向くと、そこにはくるみちゃんがいた!

「お二人とも! ぜひそのお話、私も入れてくださいまし。こんな面白そうなお話、めったにありませんもの!」

くるみちゃんが目を輝かせながら私と大河を見つめる。

「お、おうちの事情とか・・大丈夫?」

「大丈夫ですわ!! いなほちゃんと大河くんがいるなら安心だとばあやもにっこりでした!!」

あ、いや、くるみちゃんがすごいにっこりしていて、めちゃくちゃ眩しい。ばあやも泣いて喜ぶよ・・と思わず頭の中でツッコミを入れてしまった。くるみちゃんがいるということは、私たち、学校の近くまで歩いてたんだとやっと気づいた。それから3人で歩き、登校。私は遅刻も回避し、みんなとお話しながら過ごせた。早起きって最高だね!

島香先生が入ってきて朝礼が始まる。と思ったら別の先生が入ってきた。

「島香先生は本日体調不良のため、お休みの連絡を受けています。何かあった場合は教科担当の先生でも私でも構いませんので相談してくださいね。あ、申し遅れました。私は十蟹(とがに)と申します。トガちゃんって呼んでもいいですよ!ピース。」

もうすぐおじいちゃんになりそうな雰囲気を放つ小柄な十蟹先生が笑顔で言う。しかもピースなんてしてるし。十蟹先生の話を聞くと、普段は天文部にいることが多いそうで、私達はあまり面識がない。島香先生が体調不良ってなんか心配。性格は悪いけれど、体調不良なのは別の問題。

私は夜の学校が待ち遠しくて、今日は授業がすごく頭に入ってくる。楽しみがあるから頑張れているのかな。あっという間に午前の授業は終わり、私達はいつもの階段でお昼を食べている。

「島香先生が体調不良だなんて心配ですわね。熱でも出たのかしら?」

「あの先生のことだから、推し活に熱中しすぎたんじゃないか?」

「推し・・かつ?」

私が推し活と言いかけたとき、ふたりともきょとんとした様子で私を見つめる。私だったら知っていてもおかしくないと言いたげな顔をしている。

「え・・・?それって知らないとまずいやつ?」

「知らないとまずいというか、ほのかが湊に対して行動してるアレのようなもんだ。」

「えええええ!?私はただ憧れているだけなのに!!」

大河は頭を抱えて悩んでいるし、くるみちゃんが咳き込みながら笑っている。そ、そんなに悩んだり、面白いところなの!?

「ま、まあ、その、純粋なところがいなほちゃんのいいところですわ。ところで大河くん、どうして島香先生が推し活になるんです?」

「ここだけの話にしてほしいんだが。島香の机の中にアイドルのチェキ、生写真が入ってたり、授業のとき、イケメンばかり見ているらしいんだ。・・俺はイケメンじゃないらしいけどな。」

ええ、大河って島香先生のこと、よく見てるなあ。情報網がすごいなあと感心しながら、大河の話を聞く。島香先生ってアイドルが好きなんだなあ、と頷きながら聞く。

「あの、大河ってさ・・島香先生みたいな人がタイプなの?」

あたり一面が凍りつく。私なにか悪いことを言った?あんなに島香先生のこと詳しいなら好みだと思っていったんだけれど・・・。慌ててくるみちゃんが話を進める。

「たっ、大河くんもイケメンだと思いますけれど、教師の立場で特定の誰かばかり見るのはいけませんわね。」

「それも調査したほうがいいかな?」

「・・あー、でも、島香、学校に来てないんだろ? 湊の件が解決してからでもいいんじゃね?」

私達は湊くんのことも、島香先生のことも気になるけれど、できることがないということで、今日は湊くんが夜の学校で何をしているか?に絞って調査することになった。

午後の授業も問題なくこなし、終礼。

十蟹先生が穏やかな口調で話す。

「今日も1日お疲れさまでした。島香先生はしばらくお休みされるということでしたので、私十蟹がみなさんと一緒に過ごすことになりそうです。この後保護者さんの面談会がありますが・・・残る生徒さんは図書室、保護者の教室はここになっています。下校までに忘れ物がないようにしてくださいね。ではまた明日、ピース。」

私達は渡り廊下を歩き、天文部とつながっている図書室で待機することになった。図書室は大きな丸いホールで、暗くなるとプラネタリウムとして使えるくらい広々としている。私はあまり来ないけれど、この広い空間結構好き。

ソファーでくつろぎ雑談をしたり、くるみちゃんに勧められるまま難しい歴史の本を開いたりして夜を待つ。みんな、帰ってしまったから、学校に残っているのは、3人だけ。の、はず。

ぶくぶくぶく。

「ねえ、大河? お茶でも飲んだ?」

「いや、飲んでねえよ。」

「じゃあ、この泡の音はなあに?」

ぶくぶくぶくぶくぶく。

「倉庫からですわ!!」

くるみちゃんが駆け出し、図書室の倉庫扉に手をかける。

するとそこには、体調不良で休んでいたはずの島香先生と・・

体が泡になろうとしている湊くんがいた。
星空の解放日 4089文字 
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噂話と噂の生徒


—キーンコーンカーンコーン・・・

「まずい!!!」

さっき、ギャル相手に口論なんかしちゃうから本当に遅刻しちゃうよー!!

私は、稲荷ほのか(いなり)。私立天ノ川学園・文学部1年生。ショートヘアで鈴が垂れているカチューシャがトレードマーク。和服が好きだから、制服も着物っぽいアレンジにしているよ! 大河からはそれハンテンじゃね?って突っ込まれているけれどね。

・・・っと、遅刻を回避するためには・・・。

私は、教室の窓の近くにある木に登った。私が手を合わせると、くるみちゃんが渋い顔をしながら窓を開けてくれた。そこにジャンプ!!

「ふう・・間に合った!!ありがと、くるみちゃん!」

「ぎ、ギリギリ間に合って、良かったですわ。いなほちゃん。」

ホッとしたような顔で私を見ているのは、古坂くるみ(こさか)ちゃん。私の大親友。舞踊の家系で踊りや着物に詳しくて、私の先生でもあるんだ!スイッチが入るとおしゃべりになっちゃうんだけどね。なにかに夢中になれるくるみちゃんは素敵。

「ほのか!!」

冷や汗をかいてこちらを見つめるのは七木大河(ななきたいが)。私の幼馴染。最近背が伸びて、すっかり大人になったような。それでもお面をつけて授業受けるのはどうかと思・・・

「うしろ!!!」

もー、またまたおじいちゃんから教わったギャグを・・・と思ったけど、ヒヤッとする。後ろを振り向くと・・。

「おはよう、稲荷さん。今日も元気いっぱいで何よりだわ。」

満面の笑みで島香海音(しまかうみ)先生が私の後ろに立っていた。

「う、うみせんせー・・おはよ、ござい、ま、す。」

「あのね! 入学してからずっと同じことを言っているわよね? 木に登って登校しないで!と。 何度も同じことを言わせないで。」

「は、はい、すみません。」

私、島香先生、ちょっと、いや、けっこう、苦手、かも。美人だとは思うけれど、きれいな花にはトゲがあるってこういうことなんだな・・っていつも思う。

私と島香先生のやり取りを見て、くすくす笑う子もいれば、島香先生が怖くて、ビクビクしている子もいた。さすがにやりすぎた。これだったら普通に遅刻したほうが良かったな。

「・・・では、気持ちを切り替えて授業を始めます。」

さっきとは違って穏やかな声で島香先生は言う。私、やっぱり嫌われているのかな。木登りばっかりしているから?そんなもやもやで、噂話のことはすっかり飛んでいってしまった。

—お昼休み。

私、くるみちゃん、大河は、屋上に繋がる階段でお弁当を広げて食べていた。

「ったく、もう少し早く起きろっつの! 俺、ほのかの家に寄ったんだけど、起きてないのよって、ほのかのお母さん困った顔してたぞ。」

「あはは、それはどうもどうも・・。」

大河と私はお隣さん同士でもあるんだ。一緒に登校することも多いんだけど、今日は私が寝坊したから、大河は先に登校していた、というわけ。

「もう、いなほちゃん。怪我をされないか、毎回心配してしまいますわ。いなほちゃんの運動能力はすごいのですが、いのちほど大切なものはありませんからね。」

「くるみちゃん、ごめんなさい。」

普段の会話ができて、私はすごく安心した。そして、自分のこともみんなのことももっと大切にしなくちゃと思った。

「あのさ・・。通学途中でまた聞いたんだ。あの噂話。」

「ああ、天ノ川学園に閉じ込められている星を解放すれば不思議なことが起こる。ってやつか?」

「夜に学園をウロウロする生徒さんもいて、困っていると聞きますわよね。」

「ちょっと調べてみない?・・やっぱり気になる。」

「噂だろ、作り話かもしれないぞ? 夜に学校の出入りなんかしたら、大変なことになるだろ?」

「わたくしは、面白そう!と思いますけれど、ばあやが止めるでしょうね。」

・・そうだよね。みんな家族がいるんだもんね。心配かけたくないよね。

しょんぼりとしていたとき、大河が、うーん・・と考えながら口を開く。

「でも、俺、気になることがあって。天文部の瀬名湊(せなみなと)っているだろ? あいつ、夜に学校をウロウロしているらしいんだ。」

「え!? 湊くん!? 湊くん!?」

私は目を輝かせていた。だって、瀬名湊くんって天文部所属で、カッコよくて、穏やかで、すっごく素敵で、見ていて・・・。

「あ、ほのか。知ってるなら話が早い。お前、夜の学校に行って、湊が何やってきてるか見に行ってくれないか? 俺心配なんだよ。」

「心配?どうして大河が湊くんを心配するの? というかなんで湊くんを呼び捨て?」

「ほのか、言ってなかったっけ? 俺と湊は小学生の頃やってた習い事が一緒だったから顔見知りというか、友達、だからさ・・。」

「えーーーーーーーっ!?」

私は思わず大きな声で叫ぶ。それを横で見ていたくるみちゃんはクスクスと笑っている。

「こんなに大きな声を出せるなら、朝のことは吹っ切れているようですわね。良かった。」

「で、ほのか。調査してみるのか?」

「うん。調べてみる。夜の学校に湊くんがいたらお父さんもお母さんも心配しちゃうよね。」

「鈴は外したほうがいいんじゃないのか?」

「・・・テープで止めるもん!」

湊くんは天文部。文学部と天文部は校舎が別々になっていて、渡り廊下でつながっている。合同授業もあんまりないし、最近会えないんだよなあ。

大河から湊くんの特徴や性格を教えてもらった。

私が知っている湊くんって、外からのイメージでしかないんだと実感した。

私、湊くんのこと、知らないんだ。大河よりも知らないんだ。

それも含めて、調査、か。

—下校の時間。

私は、たまたま湊くんを見かけた。

女の子に囲まれていて、歩きづらそうにしている湊くん。けれど、歩きづらさは顔に出しておらず、穏やかな顔色を維持している。

青空のような青い瞳に、クリーム色の髪。

遠くから見れば、男の子なのか女の子か分からなくなるような中性的な容姿。文武両道で、弓道部に所属している。

「湊さん、今日もお疲れ様です!!」

「瀬名さん、今日もかっこよかったです!!」

湊くんを取り巻く女の子たちが、必死に声をかけている。

湊くんは女の子たちの方を見ず、上の空になっている様子でゆっくり歩いている。湊くんはか細い声でつぶやいた。

「・・・えっと。なにか言った?」

「い、いえ! お疲れのところすみません。また明日!」

取り巻く女の子たちは道を開けて去っていく。

湊くんは、さっきと変わらずゆっくり歩いていった。

「・・湊くん。登校から下校までずっと誰かと一緒にいるもんな。さっきの湊くん、疲れてるって感じがしたな。」

私はため息混じりでつぶやいた。疲れている湊くんに対し、周りの女の子たちは、クール、カッコいい、ミステリアス、守ってあげたい、なんて言うんだ。私もカッコよくて可愛い、カッコ可愛い!なんて言ってはしゃいでいたけれど、湊くんにとっては、迷惑だよね。疲れている湊くんを見て、はしゃぐなんてできないよ。

弓道をしているときの湊くんはカッコいいし、穏やかに本を読んでいる姿は吸い込まれそうになる。湊くんは一人のほうが好きなのかな・・?

校門の裏に隠れて、ずっと湊くんを見ていた私。

頭がボーッとして、通りすがる湊くんに気付かなかった。

鈴がひとつ、湊くんにぶつかる。

チリン!

「わ!ごめんなさい!」

「ううん。鈴のついたカチューシャって珍しいね。」

「うん! おばあちゃんが作ってくれたの・・って湊くん!?」

話しかけやすい雰囲気につられ、気づいたら自分のことを話してしまった。

その様子を見て、湊くんは笑顔を浮かべる。

「君、面白いね?」

「おも、おも、おもしろ・・・?」

「名前は?」

「えっと、稲荷ほのか! 文学部1年!」

「稲荷さんか。大河から聞いた通りの人だ。」

私は大河!?と叫びそうになったけれど、グッとこらえた。

「なんで喋るのをこらえようとするの? 喋りたければ喋りたければいいのに。」

「だって、湊くん。さっき、色んな子に声かけられて疲れてたじゃん?」

「・・そうか、分かる人には分かるか。」

湊くんは夕日に染まる空を見上げる。

「僕はね、気にかけてもらえるのはありがたいよ。人といるのも嫌いじゃない。けど、僕を独占しようとしたり、束縛されるのは嫌いだ。あの空のように、自由になりたいと思う時があるんだ。水槽で泳ぐよりも川や海で泳ぎたい魚のように。」

あ、ごめん。と言って湊くんは私に顔を向ける。

「ううん、気にしないで! ぶつかった私が悪いんだし。またお話しようね。湊くん。」

湊くんは頷き、それじゃまたと言って歩き出した。

「—雲のように、おだやかに過ごせたらどんなにいいだろう。」
星空の解放日 3670文字 
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プロローグ~天ノ川学園の噂~


「ねえねえ、聞いた?天ノ川学園の噂!!」
「えー? なになに?」
「天ノ川学園に閉じ込められている星をかいほう??すれば不思議なことが起きるって話!」
「それ、ずっと昔からあるじゃん。でもなんもわかってないやつ!」
「みんな、学校の七不思議よりこっちのほうが面白い!って夜の学校で遊びまくって先生も困ってるらしいよね。」
「え?天ノ川学園って不良の集まりなん??」
「てか天ノ川学園ってさ、私立の学校だから、クラスっていうか・・学部?もすごい変わってるし、通ってるやつらも変わってるんじゃない?」
「ねー、太鼓とか合唱重視とかまじ意味わからん。勉強しろし。」
「そんなあなた方が勉強しろし!!です。」
「ああ? なにこいつー。」
「私は稲荷ほのか。その天ノ川学園の生徒です。そんな嘘みたいな噂、何も知らない部外者が勝手にペラペラ喋らないでもらえます?」
「こいつ、風紀委員かよ。」
「私がぶんぶん回ればカチューシャについている鈴があなたがたを直撃しますが。」
「うっざ。いこいこ。相手しても面白くないしー。」

・・ふう、私立ってだけで偏見持たれちゃって困るなあ。

天ノ川学園に入学してから1ヶ月。
学校に向かう途中で必ずといっていいほど聞く噂話。

—天ノ川学園に閉じ込められている星を解放すれば不思議なことが起こる。

真実がわからないから、相手にしないようにしてるんだけれど、たしかに面白そう、ではある。
でも、憧れの湊くんを見て、ああ!かっこかわいい!と癒やされるのには全然負けるけどね!
さっき変なギャル?とか相手にしていたらもうこんな時間。
遅刻しちゃうよ!
噂話については、くるみちゃんや大河にも聞いてみようっと!
星空の解放日 731文字 

おともだちで家族


「あら、マニちゃん。そちらの男の子はどうしたのかしら?」
「こ、コルヴスく・・ん・・です・・」
夢世界から戻ってきたものの、まだ夜は明けていなかった。
マニは布団を一人分押入れから出し、コルヴスを布団で寝かせたのだった。

そして翌日。年頃の少女が見知らぬ少年と同じ部屋で寝ているのだ。

母親が気付かないわけがない。
どうごまかそう、どう言えばいいのか、手さぐりになりながら、
マニとぷらりおは冷や汗をかいている。

「えっとー、星を見に行ったら、お友達になったの!お外は寒いからお泊りパーティを・・」
「ぷらりちゃん、嘘は、よくないわよ?」
「お、お母さん!あ、あのね!コルヴスくんはお父さんとお母さんが・・」

どんな言い訳をしても、マニのお母さんはにっこり笑って、表情を変えない。
どうして黙っていたのかな?と言わんばかりに怒っているようにも感じる。

「あのね、マニちゃん。お母さんはね、
マニちゃんとぷらりちゃんが魔法陣に入って
夢世界に行っているのを知っていました。
隠さないで本当のことを話してね。そしてお泊りパーティのこともね。」

もう嘘を言っても仕方がない。マニは本当のことを話した。
星屑の街にある星屑の欠片が散り散りになってしまったこと。
そのことは、ぷらりおの持つ魔力で気づいたこと。
夢世界で星屑の欠片を見つけたこと。
星屑の欠片を集めようと決めたこと。
昨晩行った夢世界でコルヴスと出会ったこと。
嘘は一つもつかなかった。
そしてコルヴスが口を開いた。

「母上殿。ボクがコルヴスです。ごめんなさい。
でも、マニとぷらりおは行き場のないボクを、助けてくれたんだ。
悲しい気持ちでいっぱいだったボクを布団で寝かせてくれたんだ。
だから、感謝して・・います。
男と女が同じ部屋で寝るのは、よくないって知ってます。
だから、ボクは、話が済んだら帰ります。」

「コルヴスくん・・」

まっすぐな表情でマニのお母さんに謝る
コルヴスを悲しそうな目でマニとぷらりおは見つめる。
お母さんは、そんな3人を見て腕を組み、考えをまとめて言う。

「そうね。2階のお父さんの部屋が空いているわ。
コルヴス君はそこを使うといいわ。
さすがにマニちゃんと同じ部屋はお母さんも心配になっちゃうから。」

「お、お母さん!?いいの?」

マニたちは目を丸くする。

「いいの。コルヴス君は悪い子に見えないし、
そんな悲しい目をして嘘をつく子がどこにいますか。
それにね、劇団アリエスの施設に入るとしても
コルヴス君は劇団アリエスの団員になりたいわけじゃないでしょう?」

「はい・・正直なところ、劇団はちょっと・・」

コルヴスは困った様子で言う。
そして劇団アリエスについてお母さんは説明する。

「劇団アリエスの施設は、団員に加入することが条件で提供されている施設ね。
食堂やみんなの個室があってすごく過ごしやすいけれど、
それは表現活動を頑張ってほしいからであって、
表現活動をする気がない場合は入れないの。
家族がいない子で、表現活動をしない場合は、
一般の児童施設に入所するのが普通の流れね。」

「そ、そうなんだ・・ぷらり、全然知らなかった。」

「お母さんくらいの年齢で知っていればいいことなのよ。
でもね、子供を預かるっていうのはそういう事だから。
2人には話しておこうかなって思ったのよ。
コルヴス君を預かる手続きはきちんとやっておくから、3人仲良くするのよ。」

お母さんは、優しく微笑む。
その表情を見て、マニとぷらりおは、ハイタッチをして、手を取ってくるくると踊る。

「やったぁ!コルヴスくんと一緒に暮らせるんだね!」

「うん!!よかった!」

急に2人が喜びコルヴスは、ぽかんとしている。
コルヴスの手にマニの手が触れる。

「これからよろしくね、コルヴスくん。」

「あ、ああ、色々と手間をかけてすまない。よろしく・・。」

3人は2階の使われていないマニのお父さんの部屋に向かう。
お父さんの部屋には、ベッドとピアノが静かに置かれている。
3人は部屋の掃除を始める
。家族写真を見たコルヴスはマニにお父さんのことを尋ねる。

「マニの父上殿はどんな人だ?」

「えっとね、舞台監督をしていて忙しいかな。
年に1回家に顔を出せるか分からないくらい。」

「有名なのか?」

「うーん・・変わり者という意味では目立っていると思うけれど、
有名人というよりは、目立たないとしても
自分の世界を表現するために力を貸してくれる人のことをいっぱい大切にする人なんだ。
その姿を見た人が、またお父さんの輪に入っていく感じかな。」

マニがはたきを動かしながら、お父さんのことを誇らしげに喋る。
ぷらりおもうんうんと頷いている。
お父さんの私物はあまり置かれていないのだが、
念のためにお母さんにも確認を手伝ってもらう。

そして、残っていた資料など、
コルヴスが触ってはいけないものは部屋から出してもらえることになった。
家具などはあまりないので、配置はそのまま。
布団もお日様にあてて干して準備は万端。
これでコルヴスの部屋を一日かけて完成させたのだった。

「みんな、よくがんばったわね!」

「母上殿が手伝ってくれたおかげ・・です。ありがとうございます。」

「もう、母上殿じゃなくてお母さんでいいのよ?」

「ボクなりの礼儀なのでそれは・・」

マニとぷらりおは、コルヴスの意外な一面を見て思わず笑ってしまう。
コルヴスは照れ臭そうにしている。
四人は食卓で晩御飯をとりながら会話を弾ませる。

「ところで。星屑の欠片については、どこまで知っているのかしら?」

「絵本で見た・・範囲の事と、
ぷらりおが不思議な力で感じ取れることくらい
・・しか・・分からない・・かな。」

「あら。困ったわね。それじゃあ、
本がいっぱいある書物の塔でお勉強したらどうかしら?」

まるで星屑の欠片集めに参加したかのようにお母さんは提案する。
書物の塔とは、星屑の街の住宅街にそびえ立つ大きな塔のことだ。
周りには不思議な本が飛んでおり、
中に入ると、たくさんの昔の本が保管されている本の宝庫だ。
図書室として使えるところもあるので、勉強にはもってこいの場所だ。

「書物の塔・・いいかも!お母さんありがとう!明日行ってみるね。」

「しかし、母上殿。なぜ、ボクたちを止めたり怪しく思わないのだ?」

「それはね、お母さんは三人を信じているからよ。
星屑の欠片のことは、お母さんもよくわからないけれど、
ぷらりちゃんのような妖精がおかしいって思うなら、大変なことなのでしょう?
応援しているからね。」

四人は分担して、食後の片づけをする。
お皿を洗い、テーブルを拭き、椅子を元に戻す。
そして、それぞれの部屋に向かう。

「おやすみなさい、コルヴスくん。」

「ああ、また明日な。マニ、ぷらりお。」

「コルヴス~!おやすみ~!」

布団に入り、書物の塔へ向かうことを考える。

「書物の塔・・かあ・・手掛かりが見つかるといいな。」

ぷらりおの寝息を聞きながらマニは今日のことを振り返る。
お母さんに本当のことを話したこと。
本当のことを話した結果、コルヴスも一緒に暮らせるようになったこと。
みんなで部屋を片付けたこと、食事をしたこと。
家族が1人増えて、嬉しい気持ちで
いっぱいになったまま、マニは眠りについた。

ふしぎな世界とふしぎなできごと。


星屑の街の住宅街。
星屑の街の中では静かな部類になるのだが、人が多くとても賑やかだ。
空まで届きそうな「書物の塔」
アステリズムに通じる「天の川橋」
おいしいお菓子で人気殺到「洋菓子店プレルーナ」と、話題を呼ぶ場所が集まっている。

洋菓子店プレルーナの扉のベルの音とともに1人と1匹が姿を現す。
お菓子の入った袋を抱えている。

「おいしそうな香り!いそごっ!いそごっ!マニ、おうちかえろっ!」
「もう~ぷらりお~急いで転んだら大変だからゆっくり歩こうね。」

マニと呼ばれる少女は、ふわふわとしたクリーム色の髪。

着ているセーターも髪の色と似たクリーム色。
ぷらりおと呼ばれる茶色い姿をした
アライグマの妖精は、星の飾りがついた青い帽子、リボンのついた上着を
羽織っており、空を泳ぐようにマニの周りを動いている。
優しいマニの声と無邪気なぷらりおの声は、にぎやかな街に優しく響く。

ぷらりおがひょいっとクッキーを空に放り投げ、ぱくっと口へ運ぶ。
よく言えば、器用。悪く言えば、往生際が悪い。
それを見たマニが黙っているわけもなく大きな声を出す。

「ぷらりおー!! 喉にクッキーがつまったら大変でしょ、やめなさい~!」
「えへへ、クッキーがおいしいからぺろりとしちゃったー!」
「ぺろりじゃありませーん!」

元々、優しい性格だからか、可愛らしくも聞こえる怒鳴り声が響く。
洋菓子店プレルーナの列に並ぶ人々が微笑みながら見守っている。
クッキーなどが詰まった甘い香りのする袋を抱え、家に向かってマニとぷらりおは、走っていく。

洋菓子店プレルーナの近くにある一軒家。
それがマニとぷらりおが暮らす家だ。

家に着くと、羊たちがふわふわと浮かんでいて、マニたちを迎える。

「おかえり~!マニ!ぷらりお!おいしそうな香りがするね。お菓子を買ったのかな?」
「そうだよ~!はい、あげるー!」

羊たちにお菓子をあげると、おいしいねえと幸せそうに食べ始めた。
羊たちもぷらりおと同じ妖精だが、あまり外に出るのを好まないため、
マニやぷらりおのお土産話を楽しんでいる。

「も~!お母さん、ぷらりおったら、クッキーをひょい!って空に投げて食べたんだよ?」

クッキーを片手にマニは言う。

「あらあら、ぷらりちゃんはわんぱくねえ。遊び心もたまには大事だと思うけどなあ。」

ココアを飲みながらマニのお母さんは微笑む。
マニと同じクリーム色の髪を一つのお団子結びにしている。
マニのお父さんは、舞台監督をしており、忙しい日々を送っている。
そのため会えるのは、年に1度あるかないかだ。

ぷらりおと羊たちがはしゃいでいる声で隠すかのように、マニとお母さんの会話は続く。

「お父さん、たまには顔を出してくれればいいのにね。」
「そうねえ。お父さん、作品を通して自分を表現する!
マニちゃんにもこの思い、届くはず!なんて言っていたけれど・・
難しい話や物語はお母さんも分からないわ。
表現した自分じゃなくて本当の自分を見せる意味でも家に帰ってきてくれればいいのにね。」

「うん・・お父さんは創作スイッチが入ると、
いっぱい物語を書き始めるけれど、それ以外のことって不器用だよね・・。」

その日の夜。

いつものように、マニとぷらりおは、ぐっすりと眠っていた。
いつもならば、ぐっすり眠ったら日が昇り、朝が来るはず。
時計の針の音が静かに響く夜。
ぷらりおは、目を開ける。
そして、何かに惹かれるように歩いていく。

「ふしぎな、力・・感じる・・。」

ぷらりおの温もりがなくなり布団が少し冷たくなった。
マニがそのことに気付くまでに時間はかからなかった。

「うーん・・ぷらりお?どうしたの・・?」

マニは、目をこすりながら、着替え、ぷらりおに続く。
ぷらりおが立っていたのは、とある部屋の扉の前。
この扉の先には、不思議な世界「夢世界」に続く魔法陣がある。
夢世界は、人間の感情、想いで構成される不思議な世界。

想いによって、姿かたちが違う不思議な世界。
いくつあるのか明確な記録はない。
マニの家が妖精を保護する不思議な家になった理由は
マニが生まれるずっと前に、この部屋に夢世界へ続く魔法陣が現れたからだ。
マニが扉を開け、光り輝く魔法陣の前に立つ。
ぷらりおが魔法陣の前に立ち、しましまのしっぽをとんとんと揺らす。

「ねえ、マニ!新しい夢世界が見つかったよ!」
「・・・うん! 早く街を元に戻したいな。」

真剣な表情で、マニもぷらりおの隣に立つ。

「スランプ、挫折。表現者の暗い気持ち、悩み。
そんな想いに耐えられなくなったかのように、
星屑の街にある星屑の欠片は、散り散りになってしまった。
結界も消えて・・何事もないように見えるけれど、
やっぱり前よりも、悩んでいる人が増えた気がする。街を早く元に戻したいな。」

そして、手には紫色に輝く、星型の宝石のようなものが光っている。

「星屑の欠片」だ。
「ぷらりおの持つ、不思議な魔力で、
”紫色”の星屑の欠片を見つけたけれど、
1個だけじゃ心の悩みは、浄化できなさそうだね・・。」

紫色の光が、寂しそうに光る。

「星屑の欠片の絵本だと、星屑の欠片って
虹の色の数とおんなじだっけ?
早く欠片のお友達を見つけないとね!
マニ、準備はできた?」

「もちろん!ぷらりおも大丈夫?」

「ぷらりはだいじょうぶだよ!」

「行こう!ぷらりお!」

「OK!マニ!」

「せーのっ!!!」

マニとぷらりおは、魔法陣に飛び込む。
魔法陣は、穏やかな光で1人と1匹を包み、夢世界へいざなう。
意識が消えるような不思議な感覚。
眠っているような優しい感覚。

目を開けると、不思議な空間が目に映っている。
あたりには、くまのぬいぐるみや、うさぎのぬいぐるみが散らかっている。
水色のタンスやクローゼットといった家具が置いてある。
マニと同じくらいの年の子、あるいはそれよりも幼い子供が使うような部屋だろうか。
床には、ふかふかのカーペットが敷かれており、生活感があるようにも思える。

「なんだか誰かが住んでいるような夢世界だね。」

マニがあちこちを眺めていると、くまのぬいぐるみたちが動き出した!
夢世界は、表現者の心・想いから作られる世界。
想いが何かに憑依し、襲ってくることがある。

もし、痛みを受けてしまった場合、体の怪我にはならないが
心の負担が大きいため、意識を失ってしまう。
マニは、ぷらりおと紫色の星屑の欠片を夢世界で見つけた後、
想いを受け過ぎて意識を失ってしまったことがある。
ぷらりおの不思議な魔法の力で部屋に戻れたのだが、その日はずっと眠ってしまった。
それ以来、マニもぷらりおも夢世界の探索は、用心している。

マニとぷらりおは、息をあわせて魔法の準備をする。

「コスミックマジック!!」

大きな声で言うと、星の光が瞬き、ぬいぐるみたちを攻撃する。
ぬいぐるみたちは、くたりと倒れる。動きは止まった。

「うまくいったね!マニ!」

「うん!・・広い部屋だね。あ、奥に扉がある。行ってみよう!」

休む暇もなく、マニとぷらりおは、奥へ奥へと歩いていく。
扉が見つかれば、開けて部屋の隅々を眺める。
ぬいぐるみや絵本ばかり並んだ本棚、ふかふかのベッド。

床に本が落ちていたり、ぬいぐるみが倒れていたり、誰もいないようには思えなかった。
想いが憑依したぬいぐるみが読んでいるのだろうか?

その時だった。

「ドー・・・レー・・・ミー・・・」

ピアノの鍵盤の音が階段の奥から聞こえた。

「ゆ、夢世界の七不思議!!」

「夢世界は、七つ以上に不思議なことはあるでしょう?・・行ってみよう。」

「マニ、怖くないの?」

「夢世界は、こういうこと、いっぱいあるでしょう?ぷらりおは怖いの?」

「こ、こわくないもん! い、いこう!」

ぷらりおは、マニにつかまりぶるぶる震えている。
マニはゆっくりと階段を上る。
そこには、ピアノ。
そして。

「・・あ、あの・・あなたは・・・?」

藍色に光り輝く星型の欠片を持った少年が静かに立っている。
ねずみ色の髪、眠そうな赤色の瞳。
耳には青く星のマークがついたヘッドホン。

洋服はダボダボな、髪の色と同じようなねずみ色の服を着ている。
例えるならば、アルビノのカラスのような少年だ。
少年の肩には、少年と似た色味の白いカラスが飛んでいる。

「だれ・・だ・・?」

少年は言葉を発したが、儚く消えるような声だった。

「ひぃ!しゃ、しゃべったああ!!おばけええ!!!」

「久々に、声を、出した気がする。」

ぷらりおのびっくりした声を聞いて少年は目を覚ますかのように笑う。
その様子を見て、マニは恐る恐る尋ねる。

「あの、あなたも夢世界で想いを浄化しているの?」

「想いを浄化?いったい何のことだ?ボクはこの欠片から聴こえる音をずっと聴いていた。」

藍色に光る星屑の欠片は、きれいな色を放っているが、どこか悲しげにも見える。
ぷらりおは首をかしげる。

「欠片から音ってなんだろー?んー・・ぷらりには聞こえないよ。」

「私も、分からない。きっとあの子にしか聞こえない音。」

マニも紫色の星屑の欠片に耳を傾けてみるが、音は聞こえない。
少年は、欠片と話しているかのように、語り掛ける。

「そうか、悲しい音を取り込んで辛かったんだな。」

そして目線をマニたちに向ける。

「・・こいつは、悲しい想いをいっぱい聞いてきたらしい。手に取るだけでわかる。」

「悲しい想いが街にあふれているように感じたのは・・」

「悲しい想いを浄化する力のある欠片が、ここに迷い込んでしまっていたから・・」

藍色の星屑の欠片は、悲しい想いを浄化する役割があった星屑の欠片らしい。
少年はまた声を出す。

「ここは・・どこだ・・? ずっとピアノの前にいた気がする。」

「ここはね、夢世界だよ。

想いや感情から構成される不思議な世界。

私たちは、想いを浄化したり、

夢世界に飛んで行ってしまった星屑の欠片を集めるために来ているの。」

「ねえねえ、そういうえば、キミ!お父さんとお母さんは?」

ぷらりおの問いかけた言葉に対してマニは、はっとなった。
そういえば。
どうしてこの少年は夢世界にいるのだろう?

白いカラスが妖精で、その力で夢世界に来たのだろうか?
気になる事があふれてくる。
けれど、考えを巡らせる前に、マニは少年の目から涙があふれていることに気付いた。

「わからない・・。いないの、かもしれない。
でもこの欠片から聞こえる音は、ただ、悲しい音だった。
こいつもいてくれたが、さみしくて、つらかった。」

少年は藍色の光に包まれながら、涙を流していた。
悲しい音しか聞こえない空間にいて、どれだけ悲しい思いをしたのだろう。

そのことを考えると、マニも泣きそうになったが、ぐっとこらえて言う。

「泣かないで・・・!! 3人で帰ろう?」

「さ、さんにん!?ってマニ!この子連れて帰るの!?」

ぷらりおは、思いもよらぬ提案に大きな声を上げる。
が、マニはそれにお構いなく優しく声をかける。
そして少年にハンカチを貸してあげる。

「泣いてたら助けてあげなくちゃ。
私はマニ、この子はアライグマの妖精、ぷらりお。
あなたの名前を教えてもらえるかな?」

ハンカチで涙をふき、落ち着きを取り戻した少年は礼を述べ、続けて言う。

「名前・・・そうだ。言っていなかったな。
ボクに懐いている鳥は見ての通り、白いカラスだ。
カラス座からコルヴスと名乗る事にしよう。」

「名乗る事に?んー・・まあいいや!
夢世界って長い時間いると体にも心にも負担がかかるんだよ。
帰るならおうちに帰ろう、マニ、コルヴス!」

ぷらりおは、マニの提案に最初はびっくりはしたものの、
マニの言ったことを否定するということはしないので、コルヴスを受け入れた。

そして、マニとコルヴスは、2つの星屑の欠片を手に広げる。

「紫色の欠片、藍色の欠片・・これで2色だね。」

「なんだか暗い色の欠片だな。これを集めれば星屑の街が元に戻る、というわけか。」

「はいはい、立ち話はおうちに戻ってからしようね?

今からみんなでマニの家に帰るよ!

せーの!! ぷらりまじっく!!」

ぷらりおがくるくる回り、2人の周りを光で包み込むと、
マニの家にあるような魔法陣が生まれる。

そして、目をつむる。

光があたたかく2人を包み、徐々に意識がなくなる。
この時、コルヴスは星屑の欠片の光が眩しいと感じたが、
マニは目をつむっていて、気付いていなかった。

プロローグ~星屑の街へようこそ~


きらきら輝くあなたへ

星屑の街は「表現者」と呼ばれる人たちが集まる街です。
例えば、芸術家。例えば、アイドル。例えば、歌手。例えば、作家。
例え・・いっぱいあって書ききれません。

きらきら光る夜空の星みたいな表現活動をする人々のことを表現者と呼びます。
表現者が星のように集う街だからこの街は「星屑の街」と呼ばれています。
もちろん、表現に携わらない一般の人もいます。
一般の人のことは、そのまま「一般民」と呼びます。
表現者を応援するファンのことを「応援者」と呼びます。
私はごく普通の一般民です。
けれど、ちょっと違うのは、私の家は、妖精を保護している不思議な家であること。
家に帰れば、羊さんがおかえりと迎えて、お母さんは羊さんを見ても動じない。
私もまた、そんな景色が普通になっています。

星屑の街は、とてもきらきらしていて私は大好きです。
魔法の本が空飛ぶ書物の宝庫「書物の塔」が住宅街にそびえ立ち、
孤児院も兼ねている劇団「劇団アリエス」からは、
稽古の声から子供たちの元気な声が聞こえます。
その声を聞いていると、ひまわり畑を思い出します。
住宅街に架かる「天の川橋」は、満点の夜空が常に広がっていて、
幻想的で心を落ち着かせます。
天の川橋を渡ると、アイドルや歌手といった
眩しい星々が輝く芸能都市「アステリズム」があります。
アステリズムには「夢見の城」と呼ばれる大きなライブ会場があります。
出演を夢見るアイドルや歌手が多いことから夢見とついたそうです。

そして、街の特徴として・・
星屑の街は「星屑の欠片」と呼ばれる
星型の欠片から生まれる結界で守られています。
欠片が作り出す見えない結界のおかげで、私たちは平和に暮らせています。
争い事が起こらない、意地の悪い人がいない、
もし悪事を働かせようとする人が出たら、痛いおしおきが待っている
・・とか諸説は色々とあるけれど、
本当のところは、あまり判明していないみたい。

きらきらしているけれど、不思議なものもあって、面白いでしょう?
今度、遊びに来てくださいね。
またお話できるといいな。それではまたね。

きらきらの夢を抱く私より

星屑の街 創作信念

創ることは楽しい。嬉しい。辛い。悔しい。
それでも私たちは創ることが好きだから
ひとつの星として輝き続けたいんだ。

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