Stardustbakery星屑べーかりー

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No.4, No.3, No.2, No.14件]

書物の塔へ


「書物の塔ってどんなところだっけ?」
「書物の塔はね、本がたくさんあるんだよ。図書館エリアといって、図書館として開放している場所もあるし、奥には星屑の街の歴史にまつわるすごい本が保管されている本の宝庫だって。」
「書物の塔・・か。図書館エリアには一般民のボクらも入れるとして、ボクたちが見たいものは、図書館にある小説ではなく、歴史にまつわる本だろう? 見られるのだろうか。」
ぷらりおが書物の塔について確認を取ると、マニは説明をする。その説明を聞いて、コルヴスは思っている事をつぶやく。書物の塔は、図書館エリアは、ごく普通の一般民でも入れるのだが、星屑の欠片についてや、星屑の街の歴史について書かれている本は書物の塔の奥に保管されている。
「・・どうなんだろう。書物の塔には代々書物の番人に選ばれた人が見張りをしているって聞いたよ。奥の本を見るには、番人さんの許可が必要だと思う。」
書物の塔には、本を見張るための番人がいる。マニは”星屑の街の案内”と書かれた本を取り出し、書物の塔のページを探す。あった!と一声上げると、そこには金髪でお団子結びをした女の子が写っている。名前の項目には、書物の番人ココアットと書かれている。
「書物の番人ココアットか。話が通じる相手だといいんだが。」
コルヴスもページをのぞき込む。ぷらりおもこんな人だったんだ!と目を丸くさせている。マニがページを見ながら説明する。
「ココアットさんは、頭が良くて小さいころは体が弱かったけれど、体の弱さの原因を自分で調べて医学的に貢献したの。そしてお医者様と力を合わせて病気を治したんだって。それで書物の番人に選ばれたって書いてあるね。博学な人だから、話は聞いてくれると思うんだけど・・。」
「どうだかな。頭がいいやつほど、自分の理論を持っていて、無視されることもあるんだぞ。交渉は慎重にしなくてはいけないな。」
コルヴスはマニの説明を聞いて、少しばかり溜息をする。現実はそう甘くはないと一言付け加える。それをみたぷらりおは、口をはさむ。
「コルヴス~!!やってみなきゃ分からないよ。何もしないままだったら、何もしないままって決まるけど、なにかしたら変わる未来もあるかもしれないよ?」
「・・まぁ、そうだな。やってみてみなければ、分からない。か。ボクは居候の身だし、マニやぷらりおには助けてもらった恩がある。二人の方針に従うさ。」
「それじゃあ、書物の塔に行こうか?」
三人は家を出る。三人で出かけるのは初めてだ。マニとぷらりおのコンビはよく見かけるものの、コルヴスは周りの人から見れば、誰?と疑問に思うだろう。通り行く先で、この子はどうしたの?と実際に聞かれた。もし近所の人に聞かれた時は”遠い親戚のコルヴスくんです。事情があって家の預かりになっています。”と言うようにとマニのお母さんから言われていた。夢世界のことを話すわけにはいかないし、夢世界なんて誰が信じるだろう。一般民からすれば歴史の話でしかない。自分たちの身を守るための嘘として、親戚の子として預かっているということにしようという決まりになったのだ。
書物の塔は、マニの家から北の方向だ。そんなに距離はないが、やっぱり遠足にはおやつが欲しいところだ。ぷらりおは隣にある洋菓子店プレルーナをじっと見ている。
「おやつ、やっぱり欲しいよね?」
マニは苦笑いをする。しかし洋菓子店プレルーナは行列ができていて入れそうにない。
「残念だったな、ぷらり。おやつはお預けだな。」
コルヴスがにやりと笑ったときのことである。洋菓子店プレルーナの周りをよく見ると。屋台のような、屋外に小さなお店がありそこにいる男性が手を振っているではないか。男性は唐揚げの被り物をしている。なぜ、洋菓子店の隣で唐揚げの被り物をしているのか。なぜ、自分たちに向けて手を振っているのか、頭の整理がつかなかった。コルヴスが通報するか?と言おうとしたその時。
「君たちは!マニちゃんとぷらりお君だね?いつも洋菓子店プレルーナにご来店くださり、どうもありがとう!!君は・・風のうわさで聞く、コルヴス君だね?いやぁ、どうも初めまして!私は人呼んで唐揚げ先生!唐揚げを愛し、唐揚げのおいしい食べ方を研究している先生だよ!」
「嘘だ・・。絶対、唐揚げを作るとか言いつつ、裏ではドーナッツを作ってるだろ・・。」
明るい唐揚げ先生。ちょっと冷めているコルヴス。温度差が出来ており、マニはぽかんとしている。コルヴスの冷たい言葉に負けず、唐揚げ先生は言う。
「何を言っているんだい?コルヴス君。大人は嘘をつかないんだよ。とまあ、見ての通り洋菓子店プレルーナはちょっと混んでいてね、今から並ぶと・・一時間ちょっとかかるね。」
「い、一時間!?」
ぷらりおは目を丸くしてびっくりした声で言う。一時間も待っていられないのだ。寄り道のつもりだったし、おやつはあきらめようとマニは目を向ける。
「まあまあ待ちたまえ。お菓子をよく買ってくれるお礼があるんだよ。受け取っておくれ。」
唐揚げ先生はおやつの詰まった袋をマニに渡すと”みんなには内緒にするんだぞ”と言い残し、煙玉をぽんと投げ、煙の中に消えて行ってしまった。
「な、なんだったんだろう・・・。」
「あ、やっぱりドーナッツが入ってる。あいつはドーナッツ先生に改名すべきではないか?」
「うーん・・そういう問題じゃない気がするなぁ。」
中身は美味しいドーナッツが入っていたし、いい人だったので、通報はやめるとして、三人は気を取り直し、書物の塔へ向かう。書物の塔は高くそびえ立っており、道に迷うことはなかった。
書物の塔に着いたものの、何人かざわついているのが見える。扉を見ては去る人が多いため、3人も扉を見てみることにした。張り紙が貼ってある。
「・・書物の塔、只今点検中です。一般の方の立ち入りを禁じます。書物の番人ココアット」
「せ、整備中!?どうしよう・・。」
書物の塔の中に入れないのだ。図書館エリアなら入れると思っていただけに、ショックが隠せない。全部立ち入り禁止。番人とも話せない。3人は落胆した顔をしていた。その時上から声が聞こえる。おてんばな少女の声が聞こえるではないか。上を眺めてみると、空飛ぶ鍵に乗った青い帽子、青いコートを羽織っている少女がいる。
「おーい!! 詳しい話をするからちょっと、場所移動しようかー? あの辺なんかどう?」
少女は、西の方を指さし飛んでいった。
「ま、魔法使い?」
「とりあえず行ってみるとするか。」
3人は場所を変えてその少女の後を追う。追いついてベンチがある場所までたどり着くと、少女は着地し、にっこり笑ってみせる。空のような水色のポニーテール、紫色の瞳。ポシェットを身に着けている。
「ごめんごめん!いきなり呼びつけちゃって。しかも空の上から。」
「人を呼ぶときはもう少し慎重になってもらいたいものだな。」
「ねえねえ、君たち!書物の塔に行きたいんでしょ?」
「な、なんでそれを・・・」
「なんでって?書物の塔の前に立ってるんだもん。みんな行きたい人の集いに決まってるでしょ?わっはっは!!」
少女は豪快に笑って見せるが、これでは誰を呼んでも問題なかったのではないだろうか。
「おっと!名前を言うのを忘れていたわね。私の名前はアルアート!ココアットとは幼馴染よ。だからココって呼んでるの!」
「アルアート・・さん・・?もしかして!アステリズムのアルアートさんですか?」
「アステリズム?星群か?」
「そういう意味もあるけど、芸能事務所だよ~!!アステリズムは、アイドルや歌手がたくさん所属する芸能事務所なんだよ。」
マニは慌てて説明を加える。アステリズムは、星群という意味を持つ芸能事務所。人気アイドルや歌手、芸能人と名前を1度でも聞いたことがある人は必ずいる大手の事務所だ。
「ご名答。私はプリティアイドルのアルアートちゃんよ。でもこの通り・・」
アルアートは自分の足を見せる。足は思ったように動かせないようだ。アルアートは、アステリズム所属のアイドルもとい芸能人だ。
「ごめんごめん、こんなの見せちゃって。私はね、足が不自由だから魔法の鍵がないと自由に移動できないの。アステリズムとこのエリアを行き来できるのは、この子のおかげってわけ!」
魔法の鍵は、魔法道具と呼ばれる魔力のこもった発明品のひとつである。誰が考えたのか、誰が作り出したのかは不明で、いつの間にか現代に広まって今に至る。アルアートの持つ魔法の鍵は、実家が鍵屋ということもあり、先祖代々伝わっているものだそうだ。
「アルアートさんは、ココアットさんのことを知っているんですか?」
「知ってるもなにも、幼馴染って言ったじゃない~!バリバリ知ってるわよ。点検中っていうのも嘘ね。ココったら自分に自信がなくなると、いっつもそうするのよ。だから・・ちょっと待ってね。」
アルアートは、また道具を取り出す。星の光が出る。これは星屑の欠片ではなく”ほしつむぎ”と呼ばれる星屑の街で普及している携帯電話のようなものだ。
「もしもし?ココ?アルアートだけど。あのねー!!書物の塔を利用したいやじうまさんがわっさわさいるわよ。そろそろ鍵を開ける事ね?は?もう少し時間が掛かるし、点検も兼ねているのは本当だから待ってほしい?だーー!!ご用事ありの人がいっぱいいるんだから、早くしてよね!!」
・・アルアートの早口言葉が町中に響く。コルヴスがそっと、ココアットも苦労人だなと言ったが、アルアートの声にかき消されて誰も聞いていなかった。
「ダメねえ、時間が掛かるって。じゃあさ!ご挨拶も兼ねて、天の川橋で少し星でも見ない? アステリズムから渡ってきたとき、すごくきれいだったわよ!」
天の川橋は、この住宅街とアステリズムを結ぶ大きな橋だ。この橋がある空間は、常に星空が見えており、美しい景色を見ることが出来る橋でも有名だ。観光客にも人気の場所だ。書物の塔が点検中である以上、やる事もない。ココアットの幼馴染であるアルアートから話を聞くチャンスだと思い、3人は天の川橋でアルアートと一緒に星を眺めることにした。
小説,ぷらり、ね。 4170文字 

おともだちで家族


「あら、マニちゃん。そちらの男の子はどうしたのかしら?」
「こ、コルヴスく・・ん・・です・・」
夢世界から戻ってきたものの、まだ夜は明けていなかった。マニは布団を一人分押入れから出し、コルヴスを布団で寝かせたのだった。そして翌日。年頃の少女が見知らぬ少年と同じ部屋で寝ているのだ。母親が気付かないわけがない。どうごまかそう、どう言えばいいのか、手さぐりになりながら、マニとぷらりおは冷や汗をかいている。
「えっとー、星を見に行ったら、お友達になったの!お外は寒いからお泊りパーティを・・」
「ぷらりちゃん、嘘は、よくないわよ?」
「お、お母さん!あ、あのね!コルヴスくんはお父さんとお母さんが・・」
どんな言い訳をしても、マニのお母さんはにっこり笑って、表情を変えない。どうして黙っていたのかな?と言わんばかりに怒っているようにも感じる。
「あのね、マニちゃん。お母さんはね、マニちゃんとぷらりちゃんが魔法陣に入って夢世界に行っているのを知っていました。隠さないで本当のことを話してね。そしてお泊りパーティのこともね。」
もう嘘を言っても仕方がない。マニは本当のことを話した。星屑の街にある星屑の欠片が散り散りになってしまったこと。そのことは、ぷらりおの持つ魔力で気づいたこと。夢世界で星屑の欠片を見つけたこと。星屑の欠片を集めようと決めたこと。昨晩行った夢世界でコルヴスと出会ったこと。嘘は一つもつかなかった。そしてコルヴスが口を開いた。
「母上殿。ボクがコルヴスです。ごめんなさい。でも、マニとぷらりおは行き場のないボクを、助けてくれたんだ。悲しい気持ちでいっぱいだったボクを布団で寝かせてくれたんだ。だから、感謝して・・います。男と女が同じ部屋で寝るのは、よくないって知ってます。だから、ボクは、話が済んだら帰ります。」
「コルヴスくん・・」
まっすぐな表情でマニのお母さんに謝るコルヴスを悲しそうな目でマニとぷらりおは見つめる。お母さんは、そんな3人を見て腕を組み、考えをまとめて言う。
「そうね。2階のお父さんの部屋が空いているわ。コルヴス君はそこを使うといいわ。さすがにマニちゃんと同じ部屋はお母さんも心配になっちゃうから。」
「お、お母さん!?いいの?」
マニたちは目を丸くする。
「いいの。コルヴス君は悪い子に見えないし、そんな悲しい目をして嘘をつく子がどこにいますか。それにね、劇団アリエスの施設に入るとしてもコルヴス君は劇団アリエスの団員になりたいわけじゃないでしょう?」
「はい・・正直なところ、劇団はちょっと・・」
コルヴスは困った様子で言う。そして劇団アリエスについてお母さんは説明する。
「劇団アリエスの施設は、団員に加入することが条件で提供されている施設ね。食堂やみんなの個室があってすごく過ごしやすいけれど、それは表現活動を頑張ってほしいからであって、表現活動をする気がない場合は入れないの。家族がいない子で、表現活動をしない場合は、一般の児童施設に入所するのが普通の流れね。」
「そ、そうなんだ・・ぷらり、全然知らなかった。」
「お母さんくらいの年齢で知っていればいいことなのよ。でもね、子供を預かるっていうのはそういう事だから。2人には話しておこうかなって思ったのよ。コルヴス君を預かる手続きはきちんとやっておくから、3人仲良くするのよ。」
お母さんは、優しく微笑む。その表情を見て、マニとぷらりおは、ハイタッチをして、手を取ってくるくると踊る。
「やったぁ!コルヴスくんと一緒に暮らせるんだね!」
「うん!!よかった!」
急に2人が喜びコルヴスは、ぽかんとしている。コルヴスの手にマニの手が触れる。
「これからよろしくね、コルヴスくん。」
「あ、ああ、色々と手間をかけてすまない。よろしく・・。」
3人は2階の使われていないマニのお父さんの部屋に向かう。お父さんの部屋には、ベッドとピアノが静かに置かれている。3人は部屋の掃除を始める。家族写真を見たコルヴスはマニにお父さんのことを尋ねる。
「マニの父上殿はどんな人だ?」
「えっとね、舞台監督をしていて忙しいかな。年に1回家に顔を出せるか分からないくらい。」
「有名なのか?」
「うーん・・変わり者という意味では目立っていると思うけれど、有名人というよりは、目立たないとしても自分の世界を表現するために力を貸してくれる人のことをいっぱい大切にする人なんだ。その姿を見た人が、またお父さんの輪に入っていく感じかな。」
マニがはたきを動かしながら、お父さんのことを誇らしげに喋る。ぷらりおもうんうんと頷いている。お父さんの私物はあまり置かれていないのだが、念のためにお母さんにも確認を手伝ってもらう。そして、残っていた資料など、コルヴスが触ってはいけないものは部屋から出してもらえることになった。家具などはあまりないので、配置はそのまま。布団もお日様にあてて干して準備は万端。これでコルヴスの部屋を一日かけて完成させたのだった。
「みんな、よくがんばったわね!」
「母上殿が手伝ってくれたおかげ・・です。ありがとうございます。」
「もう、母上殿じゃなくてお母さんでいいのよ?」
「ボクなりの礼儀なのでそれは・・」
マニとぷらりおは、コルヴスの意外な一面を見て思わず笑ってしまう。コルヴスは照れ臭そうにしている。四人は食卓で晩御飯をとりながら会話を弾ませる。
「ところで。星屑の欠片については、どこまで知っているのかしら?」
「絵本で見た・・範囲の事と、ぷらりおが不思議な力で感じ取れることくらい・・しか・・分からない・・かな。」
「あら。困ったわね。それじゃあ、本がいっぱいある書物の塔でお勉強したらどうかしら?」
まるで星屑の欠片集めに参加したかのようにお母さんは提案する。書物の塔とは、星屑の街の住宅街にそびえ立つ大きな塔のことだ。周りには不思議な本が飛んでおり、中に入ると、たくさんの昔の本が保管されている本の宝庫だ。図書室として使えるところもあるので、勉強にはもってこいの場所だ。
「書物の塔・・いいかも!お母さんありがとう!明日行ってみるね。」
「しかし、母上殿。なぜ、ボクたちを止めたり怪しく思わないのだ?」
「それはね、お母さんは三人を信じているからよ。星屑の欠片のことは、お母さんもよくわからないけれど、ぷらりちゃんのような妖精がおかしいって思うなら、大変なことなのでしょう?応援しているからね。」
四人は分担して、食後の片づけをする。お皿を洗い、テーブルを拭き、椅子を元に戻す。そして、それぞれの部屋に向かう。
「おやすみなさい、コルヴスくん。」
「ああ、また明日な。マニ、ぷらりお。」
「コルヴス~!おやすみ~!」
布団に入り、書物の塔へ向かうことを考える。
「書物の塔・・かあ・・手掛かりが見つかるといいな。」
ぷらりおの寝息を聞きながらマニは今日のことを振り返る。お母さんに本当のことを話したこと。本当のことを話した結果、コルヴスも一緒に暮らせるようになったこと。みんなで部屋を片付けたこと、食事をしたこと。家族が1人増えて、嬉しい気持ちでいっぱいになったまま、マニは眠りについた。
小説,ぷらり、ね。 2956文字 

ふしぎな世界とふしぎなできごと。


星屑の街の住宅街。星屑の街の中では静かな部類になるのだが、人が多くとても賑やかだ。空まで届きそうな「書物の塔」、アステリズムに通じる「天の川橋」、おいしいお菓子で人気殺到「洋菓子店プレルーナ」と、話題を呼ぶ場所が集まっている。洋菓子店プレルーナの扉のベルの音とともに1人と1匹が姿を現す。お菓子の入った袋を抱えている。
「おいしそうな香り!いそごっ!いそごっ!マニ、おうちかえろっ!」
「もう~ぷらりお~急いで転んだら大変だからゆっくり歩こうね。」
マニと呼ばれる少女は、ふわふわとしたクリーム色の髪。着ているセーターも髪の色と似たクリーム色。ぷらりおと呼ばれる茶色い姿をしたアライグマの妖精は、星の飾りがついた青い帽子、リボンのついた上着を羽織っており、空を泳ぐようにマニの周りを動いている。優しいマニの声と無邪気なぷらりおの声は、にぎやかな街に優しく響く。ぷらりおがひょいっとクッキーを空に放り投げ、ぱくっと口へ運ぶ。よく言えば、器用。悪く言えば、往生際が悪い。それを見たマニが黙っているわけもなく大きな声を出す。
「ぷらりおー!! 喉にクッキーがつまったら大変でしょ、やめなさい~!」
「えへへ、クッキーがおいしいからぺろりとしちゃったー!」
「ぺろりじゃありませーん!」
元々、優しい性格だからか、可愛らしくも聞こえる怒鳴り声が響く。洋菓子店プレルーナの列に並ぶ人々が微笑みながら見守っている。クッキーなどが詰まった甘い香りのする袋を抱え、家に向かってマニとぷらりおは、走っていく。洋菓子店プレルーナの近くにある一軒家。それがマニとぷらりおが暮らす家だ。家に着くと、羊たちがふわふわと浮かんでいて、マニたちを迎える。
「おかえり~!マニ!ぷらりお!おいしそうな香りがするね。お菓子を買ったのかな?」
「そうだよ~!はい、あげるー!」
羊たちにお菓子をあげると、おいしいねえと幸せそうに食べ始めた。羊たちもぷらりおと同じ妖精だが、あまり外に出るのを好まないため、マニやぷらりおのお土産話を楽しんでいる。
「も~!お母さん、ぷらりおったら、クッキーをひょい!って空に投げて食べたんだよ?」
クッキーを片手にマニは言う。
「あらあら、ぷらりちゃんはわんぱくねえ。遊び心もたまには大事だと思うけどなあ。」
ココアを飲みながらマニのお母さんは微笑む。マニと同じクリーム色の髪を一つのお団子結びにしている。マニのお父さんは、舞台監督をしており、忙しい日々を送っている。そのため会えるのは、年に1度あるかないかだ。ぷらりおと羊たちがはしゃいでいる声で隠すかのように、マニとお母さんの会話は続く。
「お父さん、たまには顔を出してくれればいいのにね。」
「そうねえ。お父さん、作品を通して自分を表現する!マニちゃんにもこの思い、届くはず!なんて言っていたけれど・・難しい話や物語はお母さんも分からないわ。表現した自分じゃなくて本当の自分を見せる意味でも家に帰ってきてくれればいいのにね。」
「うん・・お父さんは創作スイッチが入ると、いっぱい物語を書き始めるけれど、それ以外のことって不器用だよね・・。」
その日の夜。いつものように、マニとぷらりおは、ぐっすりと眠っていた。いつもならば、ぐっすり眠ったら日が昇り、朝が来るはず。時計の針の音が静かに響く夜。ぷらりおは、目を開ける。そして、何かに惹かれるように歩いていく。
「ふしぎな、力・・感じる・・。」
ぷらりおの温もりがなくなり布団が少し冷たくなった。マニがそのことに気付くまでに時間はかからなかった。
「うーん・・ぷらりお?どうしたの・・?」
マニは、目をこすりながら、着替え、ぷらりおに続く。ぷらりおが立っていたのは、とある部屋の扉の前。この扉の先には、不思議な世界「夢世界」に続く魔法陣がある。夢世界は、人間の感情、想いで構成される不思議な世界。想いによって、姿かたちが違う不思議な世界。いくつあるのか明確な記録はない。マニの家が妖精を保護する不思議な家になった理由は、マニが生まれるずっと前に、この部屋に夢世界へ続く魔法陣が現れたからだ。マニが扉を開け、光り輝く魔法陣の前に立つ。
ぷらりおが魔法陣の前に立ち、しましまのしっぽをとんとんと揺らす。
「ねえ、マニ!新しい夢世界が見つかったよ!」
「・・・うん! 早く街を元に戻したいな。」
真剣な表情で、マニもぷらりおの隣に立つ。
「スランプ、挫折。表現者の暗い気持ち、悩み。そんな想いに耐えられなくなったかのように、星屑の街にある星屑の欠片は、散り散りになってしまった。結界も消えて・・何事もないように見えるけれど、やっぱり前よりも、悩んでいる人が増えた気がする。街を早く元に戻したいな。」
そして、手には紫色に輝く、星型の宝石のようなものが光っている。「星屑の欠片」だ。
「ぷらりおの持つ、不思議な魔力で、”紫色”の星屑の欠片を見つけたけれど、1個だけじゃ心の悩みは、浄化できなさそうだね・・。」
紫色の光が、寂しそうに光る。
「星屑の欠片の絵本だと、星屑の欠片って虹の色の数とおんなじだっけ?早く欠片のお友達を見つけないとね!マニ、準備はできた?」
「もちろん!ぷらりおも大丈夫?」
「ぷらりはだいじょうぶだよ!」
「行こう!ぷらりお!」
「OK!マニ!」
「せーのっ!!!」
マニとぷらりおは、魔法陣に飛び込む。魔法陣は、穏やかな光で1人と1匹を包み、夢世界へいざなう。意識が消えるような不思議な感覚。眠っているような優しい感覚。

目を開けると、不思議な空間が目に映っている。あたりには、くまのぬいぐるみや、うさぎのぬいぐるみが散らかっている。水色のタンスやクローゼットといった家具が置いてある。マニと同じくらいの年の子、あるいはそれよりも幼い子供が使うような部屋だろうか。床には、ふかふかのカーペットが敷かれており、生活感があるようにも思える。
「なんだか誰かが住んでいるような夢世界だね。」
マニがあちこちを眺めていると、くまのぬいぐるみたちが動き出した!
夢世界は、表現者の心・想いから作られる世界。想いが何かに憑依し、襲ってくることがある。もし、痛みを受けてしまった場合、体の怪我にはならないが、心の負担が大きいため、意識を失ってしまう。マニは、ぷらりおと紫色の星屑の欠片を夢世界で見つけた後、想いを受け過ぎて意識を失ってしまったことがある。ぷらりおの不思議な魔法の力で部屋に戻れたのだが、その日はずっと眠ってしまった。それ以来、マニもぷらりおも夢世界の探索は、用心している。マニとぷらりおは、息をあわせて魔法の準備をする。
「コスミックマジック!!」
大きな声で言うと、星の光が瞬き、ぬいぐるみたちを攻撃する。ぬいぐるみたちは、くたりと倒れる。動きは止まった。
「うまくいったね!マニ!」
「うん!・・広い部屋だね。あ、奥に扉がある。行ってみよう!」
休む暇もなく、マニとぷらりおは、奥へ奥へと歩いていく。扉が見つかれば、開けて部屋の隅々を眺める。ぬいぐるみや絵本ばかり並んだ本棚、ふかふかのベッド。床に本が落ちていたり、ぬいぐるみが倒れていたり、誰もいないようには思えなかった。想いが憑依したぬいぐるみが読んでいるのだろうか?その時だった。
「ドー・・・レー・・・ミー・・・」
ピアノの鍵盤の音が階段の奥から聞こえた。
「ゆ、夢世界の七不思議!!」
「夢世界は、七つ以上に不思議なことはあるでしょう?・・行ってみよう。」
「マニ、怖くないの?」
「夢世界は、こういうこと、いっぱいあるでしょう?ぷらりおは怖いの?」
「こ、こわくないもん! い、いこう!」
ぷらりおは、マニにつかまりぶるぶる震えている。マニはゆっくりと階段を上る。そこには、ピアノ。そして。
「・・あ、あの・・あなたは・・・?」
藍色に光り輝く星型の欠片を持った少年が静かに立っている。ねずみ色の髪、眠そうな赤色の瞳。耳には青く星のマークがついたヘッドホン。洋服はダボダボな、髪の色と同じようなねずみ色の服を着ている。例えるならば、アルビノのカラスのような少年だ。少年の肩には、少年と似た色味の白いカラスが飛んでいる。
「だれ・・だ・・?」
少年は言葉を発したが、儚く消えるような声だった。
「ひぃ!しゃ、しゃべったああ!!おばけええ!!!」
「久々に、声を、出した気がする。」
ぷらりおのびっくりした声を聞いて少年は目を覚ますかのように笑う。その様子を見て、マニは恐る恐る尋ねる。
「あの、あなたも夢世界で想いを浄化しているの?」
「想いを浄化?いったい何のことだ?ボクはこの欠片から聴こえる音をずっと聴いていた。」
藍色に光る星屑の欠片は、きれいな色を放っているが、どこか悲しげにも見える。ぷらりおは首をかしげる。
「欠片から音ってなんだろー?んー・・ぷらりには聞こえないよ。」
「私も、分からない。きっとあの子にしか聞こえない音。」
マニも紫色の星屑の欠片に耳を傾けてみるが、音は聞こえない。少年は、欠片と話しているかのように、語り掛ける。
「そうか、悲しい音を取り込んで辛かったんだな。」
そして目線をマニたちに向ける。
「・・こいつは、悲しい想いをいっぱい聞いてきたらしい。手に取るだけでわかる。」
「悲しい想いが街にあふれているように感じたのは・・」
「悲しい想いを浄化する力のある欠片が、ここに迷い込んでしまっていたから・・」
藍色の星屑の欠片は、悲しい想いを浄化する役割があった星屑の欠片らしい。少年はまた声を出す。
「ここは・・どこだ・・? ずっとピアノの前にいた気がする。」
「ここはね、夢世界だよ。想いや感情から構成される不思議な世界。私たちは、想いを浄化したり、夢世界に飛んで行ってしまった星屑の欠片を集めるために来ているの。」
「ねえねえ、そういうえば、キミ!お父さんとお母さんは?」
ぷらりおの問いかけた言葉に対してマニは、はっとなった。そういえば。どうしてこの少年は夢世界にいるのだろう?白いカラスが妖精で、その力で夢世界に来たのだろうか?気になる事があふれてくる。けれど、考えを巡らせる前に、マニは少年の目から涙があふれていることに気付いた。
「わからない・・。いないの、かもしれない。でもこの欠片から聞こえる音は、ただ、悲しい音だった。こいつもいてくれたが、さみしくて、つらかった。」
少年は藍色の光に包まれながら、涙を流していた。悲しい音しか聞こえない空間にいて、どれだけ悲しい思いをしたのだろう。そのことを考えると、マニも泣きそうになったが、ぐっとこらえて言う。
「泣かないで・・・!! 3人で帰ろう?」
「さ、さんにん!?ってマニ!この子連れて帰るの!?」
ぷらりおは、思いもよらぬ提案に大きな声を上げる。が、マニはそれにお構いなく優しく声をかける。そして少年にハンカチを貸してあげる。
「泣いてたら助けてあげなくちゃ。私はマニ、この子はアライグマの妖精、ぷらりお。あなたの名前を教えてもらえるかな?」
ハンカチで涙をふき、落ち着きを取り戻した少年は礼を述べ、続けて言う。
「名前・・・そうだ。言っていなかったな。ボクに懐いている鳥は見ての通り、白いカラスだ。カラス座からコルヴスと名乗る事にしよう。」
「名乗る事に?んー・・まあいいや!夢世界って長い時間いると体にも心にも負担がかかるんだよ。帰るならおうちに帰ろう、マニ、コルヴス!」
ぷらりおは、マニの提案に最初はびっくりはしたものの、マニの言ったことを否定するということはしないので、コルヴスを受け入れた。そして、マニとコルヴスは、2つの星屑の欠片を手に広げる。
「紫色の欠片、藍色の欠片・・これで2色だね。」
「なんだか暗い色の欠片だな。これを集めれば星屑の街が元に戻る、というわけか。」
「はいはい、立ち話はおうちに戻ってからしようね? 今からみんなでマニの家に帰るよ! せーの!! ぷらりまじっく!!」
ぷらりおがくるくる回り、2人の周りを光で包み込むと、マニの家にあるような魔法陣が生まれる。そして、目をつむる。光があたたかく2人を包み、徐々に意識がなくなる。この時、コルヴスは星屑の欠片の光が眩しいと感じたが、マニは目をつむっていて、気付いていなかった。
小説,ぷらり、ね。 5041文字 

プロローグ~星屑の街へようこそ~


きらきら輝くあなたへ

星屑の街は「表現者」と呼ばれる人たちが集まる街です。例えば、芸術家。例えば、アイドル。例えば、歌手。例えば、作家。例え・・いっぱいあって書ききれません。きらきら光る夜空の星みたいな表現活動をする人々のことを表現者と呼びます。表現者が星のように集う街だからこの街は「星屑の街」と呼ばれています。もちろん、表現に携わらない一般の人もいます。一般の人のことは、そのまま「一般民」と呼びます。表現者を応援するファンのことを「応援者」と呼びます。私はごく普通の一般民です。けれど、ちょっと違うのは、私の家は、妖精を保護している不思議な家であること。家に帰れば、羊さんがおかえりと迎えて、お母さんは羊さんを見ても動じない。私もまた、そんな景色が普通になっています。

星屑の街は、とてもきらきらしていて私は大好きです。魔法の本が空飛ぶ書物の宝庫「書物の塔」が住宅街にそびえ立ち、孤児院も兼ねている劇団「劇団アリエス」からは、稽古の声から子供たちの元気な声が聞こえます。その声を聞いていると、ひまわり畑を思い出します。住宅街に架かる「天の川橋」は、満点の夜空が常に広がっていて、幻想的で心を落ち着かせます。天の川橋を渡ると、アイドルや歌手といった眩しい星々が輝く芸能都市「アステリズム」があります。アステリズムには「夢見の城」と呼ばれる大きなライブ会場があります。出演を夢見るアイドルや歌手が多いことから夢見とついたそうです。そして、街の特徴として・・星屑の街は「星屑の欠片」と呼ばれる星型の欠片から生まれる結界で守られています。欠片が作り出す見えない結界のおかげで、私たちは平和に暮らせています。争い事が起こらない、意地の悪い人がいない、もし悪事を働かせようとする人が出たら、痛いおしおきが待っている・・とか諸説は色々とあるけれど、本当のところは、あまり判明していないみたい。きらきらしているけれど、不思議なものもあって、面白いでしょう? 今度、遊びに来てくださいね。 またお話できるといいな。それではまたね。

きらきらの夢を抱く私より

星屑の街 創作信念

創ることは楽しい。嬉しい。辛い。悔しい。
それでも私たちは創ることが好きだから
ひとつの星として輝き続けたいんだ。
小説,ぷらり、ね。 963文字